[今月のエッセイ]
青春に立つ。
いつ頃だったか、とある記事を見掛けた。
知的な遅れなどはないのに、文字の読み書きに困難な子供たちがいる。生まれつきの特性である学習障害(LD)のひとつで、ディスレクシアと呼ばれている。
その子たちは、教師や親から理解されず、読み書きが出来ないのは努力が足りないからだと言われ、そうした対応が不登校の原因になることがあると書かれてあった。
読み進めているうちに、ディスレクシアについてもっと詳しく知りたくなり、片っ端から関連書籍を読み漁った。
その中で私が知ったのは、人間誰もが個性があるように、ディスレクシアの子供たちにも個性があり、全てが読めない、書けない、というわけではないこと。
そして、何かが出来ないからといって悲観的になるのではなく、自分の出来ることを伸ばし、学びの意欲や生きる意欲を失わないようにすること。
というものだった。
書籍を読み終えた後、ディスレクシアの子供たちの希望になるような物語は書けないだろうかと考えた。
そして思い立ったのが、ディスレクシアの少年が甲子園を目指すという物語だった。
私の趣味のひとつに、高校野球、高校バスケ、高校サッカー観戦がある。プロには興味がないのだけど、高校生の部活が好きで、昔からよく観戦をしていた。
その理由は、負けてしまったら終わりというその瞬間の勝敗に、全力をかける学生たちの、生きる力強さ、熱さを感じていたからだった。
ディスレクシアの中には、空間認知が苦手で、そのせいでスポーツを不得意とする者も大勢いるという。
だけど、ディスレクシアの少年が、テニス留学をし、アメリカのテニススクールの講師になったというインタビュー記事を読んだ。アメリカは学習障害の支援が進んでいることもあり、その少年は留学したようだった。
モチーフが決まったら、次は場所だった。
明治神宮球場で行われる夏の高校野球東京大会には何度も足を運んでいる。それとも隣県の神奈川県にしようか。
高校野球では、神奈川を制するものは甲子園を制する、と言われているほど、神奈川県は強豪校揃いだ。
だけど、そこでふと思い出したのである。私の地元・福島も高校野球が盛んだったのだ。
しかも、甲子園をテレビ観戦したことのある人なら一度は聞いたことのある『栄光は君に輝く』の作曲家・古関裕而さんは、地元の小中学校の先輩でもあるのだ。古関裕而さんは朝ドラ『エール』のモデルになった方でもある。
近年の東北は、仙台育英が全国高等学校野球選手権大会の優勝旗を持ち帰り、白河の関を越えた、高校野球の東北勢が強くなったと話題になった。
そんなこともあり、地元を舞台にディスレクシアの少年が甲子園を目指す物語になった。
タイトルは『アオハルスタンド』。青春に立つ、という意味。
主人公である
負けず嫌いの桃李は、休みの日に図書館へ通い、本を読もうとする。だが漢字のない絵本を読んでも、授業中と同じように目が滑り、何をしても文字が
だけど、そこに道筋を作ってくれたのが、同級生である
桃李の障害を見抜き、『何かが出来ないなら、他に出来ることを探せばいい。その出来ることの努力を惜しまず生きればいいんだ』
そう助言をし、スポーツの得意な桃李に、野球をやろう、甲子園を目指そうと誘うのである。
人との出会いは、つくづく不思議なものだと思う。
もし、自分だけではどうしようもない悩みがあったら、誰かに話してみるのもいいかもしれない。
そして、何かが出来ないからといって全てに悲観的にならず、自分の出来ることを見つけ、努力を怠らずにいれば、いつの間にか人生の道が出来上がっているのではないかと思う。
初めに書いたように、今回私が書いた『アオハルスタンド』を読んでもらうことで、ディスレクシアの子供たちの希望になればいいなと思う。
そして今、エッセイを書いていて気付いた。青春の時期、何をしていいのか分からず、鬱屈した気持ちで沸々としている学生さんたちにも読んでもらえたら嬉しいです。
持地佑季子
もちじ・ゆきこ●脚本家、作家。
福島県出身。第20回フジテレビヤングシナリオ大賞・佳作受賞。映画『管制塔』『くちびるに歌を』『青空エール』『青夏』などの脚本を手掛ける。小説に『クジラは歌をうたう』『七月七日のペトリコール』『ハツコイハツネ』。