[本を読む]
驚異のアスリート一家の
根幹となる思考が刻まれた本
撮影/内藤サトル
7・26キロの鉄球を可能な限り遠くへ放り投げる「ハンマー投げ」という競技を通して、二代でオリンピック金メダリストへと上り詰めた室伏親子。
父、室伏重信氏(写真右)の半生を克明に記しつつ、ハンマーを遠くに投げるという極めてシンプルな競技において、無限に広がる考察と物理法則に基づいた技術探求を通して得た、全ての運動に通ずる膨大な知識体系の構築の過程を知ることができる一冊である。
重信氏のアジア大会5連覇、日本選手権10連覇を含む12勝、さらに息子・広治氏(写真左)の日本選手権20連覇、オリンピック金メダル、加えて娘・由佳氏もハンマー投げ日本選手権5勝、円盤投げでは日本選手権10連覇を含む12勝、親子3人で日本選手権優勝に計49度輝く金字塔を打ち立てた驚異のアスリート一家の根幹となる思考がこの本に刻まれている。
同世代で競技をしていて、室伏広治氏の存在を知らないものはいなかった。そして同時にその父、室伏重信氏を知らぬものもいなかった。試合の各会場、いつも同じ第二コーナー付近のスタンドでカメラを設置して広治氏の試合を分析する重信氏の異様な体格や風格、放たれる言葉に、当時の全選手が敬意を払い、室伏家の師弟関係に憧憬の視線を送っていた。
全スポーツの全指導者の理想形とも言える、自らの実践を通した重信氏の理論は、宇宙やネアンデルタール人にまで及ぶ哲学的思想を伴って、生き生きと弾ける「智慧の種」だと感じられると思う。
武井 壮
たけい・そう● タレント、元陸上・十種競技日本チャンピオン