[本を読む]
私たちは皆、農奴である!
資本主義の終わりを想像することは世界の終わりを想像するより難しい(F・ジェイムソン)。その原因は、資本主義がなかなか死なないからだと考えられている。しかし資本主義の終わりを想像できないのは、資本主義が死につつあることに私たちが気づかないからだったとしたら、どうか。
バルファキスは、資本主義は終わり、別のシステムに変わろうとしている、と説く。別のシステムとは? 資本主義の後にくると予想されていたもの(社会主義)とは真逆のもの、一種の封建制、そうテクノ封建制である。どういうことか?
資本自体は終わらない。というより資本は成功しすぎて、突然変異種を生んだ。クラウド資本だ。クラウド資本とは、AIのアルゴリズムと結びついたネットワークのことだ(例、アマゾン)。クラウド資本の所有者がクラウド領主。彼らはかつて共有地だったインターネットを囲い込み、それぞれの領土(プラットフォーム)をもっている。普通の資本家は、自分の商売にそのクラウド領土を使わせてもらいながら、レント(賃借料)を領主に支払っている。彼らは、クラウド領主の封臣である。
クラウド領土に価値があるのはどうしてなのか。何億もの農奴がただで働いて、領土の価値を高めているのだ。農奴とは誰か。私たちユーザーだ。私たちがレヴューを書いたり、動画をあげたりすると、領土の価値はあがる。クラウド資本は、不払い労働によって再生産されているのである! クラウド領主による搾取は普遍的だ。資本家は労働者しか搾取できない。だがクラウド領主は、労働だけではなく、消費や遊びまで搾取している。
私たちクラウド農奴はネット上で自由に行動しているつもりだが、クラウド領主の利益が極大化する方向にその行動を誘導されている。最も危険なことはこれ、自由だと信じている不自由である。
資本主義に執着するとかえって資本主義はより悪いもの(封建制)へと変容する。だったら、むしろこの変容の力を転用して、錯覚ではない真の自由を享受しうるシステムへの変革を推進すべきだ。どうしたらよいのか。そのヒントも本書に書かれている。
大澤真幸
おおさわ・まさち●社会学者