[本を読む]
親愛に満ちた家族の対話
本書は脱サラして酪農家になった著者の父・
本書のタイトル『父が牛飼いになった
著者の目を通して語られる父はとても魅力的な人物である。黙々と牛飼いの仕事をこなす一方で、タバコとパチンコとスポーツ中継を好み、猫を可愛がり、子どもを連れてワカサギ釣りに行く。また、実習生を快く受け入れ、カナディアンカヌーを作り、さらには羊飼いになった著者のために、羊小屋を建ててくれる。どこにでもいるような人のいい農家のおじさんだ。しかしある日父はくも膜下出血で倒れ、高次脳機能障害のために記憶と自我を失ってしまう。そして長い自宅介護の末に、現在は特別養護老人ホームに入所している。本書は、自らの言葉を失ってしまった父との、家族の歴史をめぐる、親愛に満ちたな対話であるように私には思われた。
鈴木牛後
すずき・ぎゅうご●俳人