[本を読む]
トランプ大統領のスリリングな
経済ゲームはどう展開していくのか?
バイデン政権時代のアメリカは、外交ではアフガニスタンからの米軍撤退に始まり、ウクライナ紛争の勃発を含めて大きな成果が上がったとは言い難いし、国内政策においても、不法移民対策からグリーンエネルギー政策まで同様であった。さらに経済面においても、バイデン政権時代のFRBによる金融政策は、後手後手に回り、米ドルの価値は低下し、スタグフレーション(不況下のインフレ)に陥っているのにアメリカの株式市場は実体経済に鈍感であった。バブルである。
この状況で登場したドナルド・トランプ大統領率いるトランプ政権の見どころの一つは、近未来に必ず起こるだろうクラッシュ=暴落をどう乗り切るかということである。暴落は起こるのである。本書での見解は、「米国が面白いのは、そんな暴落の先に世界を凌駕すると思われる新たに注目すべき分野を多数持っていることだ。そうした面では米国は『不死鳥』と言わざるを得ない」(第2章)、というものである。アメリカは1970年代に、世界の石油取引の決済をドルで行うという「ペトロダラー戦略」を採用し、復活を遂げた。やはり現代においても、エネルギー政策を軸に(第4章)、その先に、企業の成長が見える(第5章)、というのが本書が描くトランプ大統領のゲーム戦略である。
読んでみれば、説得力のあるゲーム戦略である。では完璧なのか? トランプ大統領に地政学という言葉はないように見えるが、それがアメリカの文化なのだろうし、トランプ大統領はビジネスでアメリカ流の戦略を会得したのだろう。トランプ政権の戦略は極めてアメリカン・ビジネス的である。地政学の本拠地であるヨーロッパは全く違うやり方でゲームに参戦している。BRICSもロシアと中国を中心にアメリカに勝負を挑んでいる。BRICSのデジタル通貨戦略はアメリカに近いのかも知れないが、だからこそBRICSとアメリカは正面衝突し続けるだろう。
トランプ大統領は、ドルの価値低下に歯止めをかけ、アメリカの復活(MAGA)、そして国内経済の安定を演出できるのだろうか。読者が投資家としてトランプ大統領のゲーム戦略に乗るのか乗らないのかは、本書を一読して決めて欲しい。
筒井 潔
つつい・きよし●公共政策&経営コンサルタント