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内藤正典/三牧聖子『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』(集英社新書)
をダースレイダーさんが読む

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欧米のダブルスタンダードの果ての
国民国家秩序崩壊の予兆

 イスラエル軍がシファ病院を攻撃すると発表した時のショックは大きかった。僕自身が病人であるため病院というインフラへの依存度が高いこともあり、瞬時に自分が入院していた時と重ね合わせて想像する。一人では歩けない状態で点滴に繫がれてベッドで寝ている。そこにミサイルの轟音が響き、壁が破壊され、戦車が突入してくる。そもそも直接攻撃する以前からイスラエルはガザへの水と電気の供給を止めている。これだけでも日常生活は機能停止する。病院業務ならば尚更だ。イスラエルが戦時国際法を無視して病院を攻撃した理由は、ハマスの総司令部が地下に存在するからだと言う。これは強く言っておきたいが、その確たる証拠は未だに提供されていない。アメリカもこの主張の証拠を得たとしてすぐに支持したが、同様に証拠は示していない。自由、民主主義、人権を旗印にするアメリカが病院攻撃を支持した根拠を示していないのだ。
 本書は10・7のハマスによるテロ行為を許さないという前提に立った上で、欧米各国によるリベラルな主張がイスラエルが対象になった途端にことごとく誤作動を起こし、ダブルスタンダードに陥っていく様を徹底的に批判している。読み進めるうちに僕の中に浮かぶのは、19世紀に西欧で成立した国民国家を単位とする国際社会が成り立たなくなっていく様子だ。国民国家は大きすぎる。そもそもパレスチナ人やクルド人はその枠組みから外れた人達だが、ニジェールやマリといったアフリカ諸国の動向も同じ問題の延長に感じる。最後の国民国家的振る舞いを続けるイスラエルやロシアと欧米のダブルスタンダードの果てには、国民国家に基づく秩序の崩壊の予兆がある。その時、ヒントとなるのがトルコのスタンスだ。そもそもオスマン帝国的支配は緩く、包摂的だった。崩壊の後に残るミニマムな共同体の連なりに、何らかの包摂的な繫がりは生まれ得るだろうか?

ダースレイダー

だーすれいだー●ヒップホップ・ミュージシャン

『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』

内藤正典/三牧聖子 著

発売中・集英社新書

定価 1,100円(税込)

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