[本を読む]
人の複雑さを守り信じる強さを
「本当のこと」はどこにあるのだろう。溢れかえる情報の中で、私たちは囚われることなく「本当のこと」に辿り着けるのだろうか。いつだって言葉は足りず、イメージの偽装は横行する。物事を単純化してはいけない、という単純なスローガンは日々受け取るのにその実例は驚くほど少ない。
2021年夏、小山田圭吾の「いじめ」問題に関する不当な誤情報の拡散――インフォデミックが起きた。本書はその大規模な炎上を検証することを通し、単純化された情報による暴力から私たちの複雑な生の営みを取り戻すことに成功した
誠実な検証もさることながら、日本におけるいじめ言説に対する分析は本書の
本書に通底する旋律は、不安定さと曖昧さを抱えた人間という存在そのものへの祈りだ。その音は、この惑星でこれからも必要とされている小山田の音楽と共鳴する。どうか、人の複雑さを守り信じる強さを受け取って欲しい。様々なものは変わり消える。それでも本当の作品は、残る。常に問いを投げかけながら。
石田月美
いしだ・つきみ●作家