[本を読む]
新たな切り口で語られる剣士の生涯
内面は激情、行動は苛烈、なのに清新な気配に満ちている――『闘鬼
歴史上の人物といえば、遠い存在をイメージするが、実は幕末ともなると、水道、電気、ガス、交通などのインフラがないことを除けば、人々の生活は現代人にかなり近いのではないかと思う。本作を読み進めてすぐに感じとれるのは、斎藤をはじめとする新選組の面々が、等身大の人間として親しみやすく描かれていることだ。だが、それだけが本作のまとう清新な気配の理由ではないだろう。
冒頭、斎藤が幼少時に、蜘蛛が自らの巣にかかった羽虫を仕留める様子を見る場面は、本作において重要な意味を持っている。どう重要かについては、実際に読み進めて知っていただきたいのだが、ひとつヒントめいたことを言えば、作中に出てくる“「闘」と「争」は違う”という観念がある。斎藤が常にそれをわきまえながら生き続けていったということが、本作では太い背骨として全編を貫いている。斎藤の人生において大きな謎である「なぜ生き残れたのか、生き残ったのか」を解くカギは、ここにあるのではないか。
もちろん、時代小説ファンなら誰もが期待する、
内田俊明
うちだ・としあき● 八重洲ブックセンター 書店員