[本を読む]
同じ釜の飯を食った世界中の友達の記録
まさか「海外旅行をしてはいけない」なんて、それどころか、人に会う時は気をつけろと言われることになるなんて、SF小説にだって描かれていない世界になってしまった。
でも私たちはいま、その現実の中にいる。新型コロナウイルスとどうにか折り合いをつけて、息を殺し恐る恐る生きている。だけどそろそろ限界だ。どこかに行きたい。家族や友達と
本書は閉塞したこの時代に、一条の光を
「世界がもっと楽しくなるには、どうしたらいいか」という問いの答えを10代のころから探していた著者が見つけた解決策の原石は「人を訪ねてごはんを食べる=キッチハイク」だった。まずは自分が世界中の食卓を訪ねてみよう。旅先の道端で出逢った人に声をかけたり、友達の紹介(のさらに紹介)で、人のおうちでごはんを食べる。曰く「胃袋わらしべ長者」となって、縁を頼りに人の食卓にお邪魔する。
会社を辞め、この計画を始めたのは2013年6月のこと。最初の目的地はマレーシアのクアラルンプール。バクバクする心臓を抱えて教えてもらった住所のインターホンを押す。フレンドリーな女性が伝統料理のナシ・レマッをご馳走してくれた。なんと居合わせた電気工事のおじさんまで巻き込んで!
楽しい旅は400日を超え、アジア・オセアニア、北中南米、北アフリカ・ヨーロッパと世界一周旅行となる。
振舞ってくれる料理がみんな美味しそうだ。著者は少し図々しいくらいの勢いでパクつく。最初は怖そうだと
きっといつか、こんな日々が戻ってくると信じたい。いまは身近な人と食卓を囲む楽しみを見つけよう。やがてその時が来たら、次は私たちが迎え入れる番になる。
東えりか
あづま・えりか● 書評家、書評サイト「HONZ」副代表