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対談/本文を読む

『たまには世界のどこかでふたりっぷ』
ひとりっP×地曳いく子
「旅を、人生を、アップデートしていく」

[対談]

旅を、人生を、アップデートしていく
ひとりっP×地曳いく子

稀代の “旅バカ” 編集者ひとりっPさんと、人気スタイリストの地曳いく子さんが、『たまには世界のどこかでふたりっぷ』を刊行します。普段はひとり旅(ひとりっぷ)派のおふたりにとって、ふたり旅(ふたりっぷ)の楽しみ&魅力とは? 旅に持っていく愛用品から、旅の鉄板ワードローブ、航空チケットの賢い取り方まで。旅のノウハウとアイディアが詰まった本書の刊行にあたり、内容の一部を紹介するとともに、対談をお届けします。
いつかまた、世界のどこかへ、旅立つために―― 。

構成=砂田明子/対談撮影=冨永智子/ふたりっぷ写真=ひとりっP・地曳いく子

※「ひとりっぷ」「ふたりっぷ」は株式会社集英社の登録商標です。

二十五年ぶりの“ふたりっぷ”

ひとりっP(以下、P) 私がまだペーペーの旅人で、会社に入ったばかりの頃、雲の上のスタイリストだったいく子さんは、すでにベテラン旅人でした。

地曳 実は若い頃、私、バックパッカーだったんです。

P そう。お互いバックパッカーだったとか、ダイバーだとか共通点があって、いろんなことを教えていただいて。

地曳 付き合いは、三十年以上ですよね。

P 今回の本では、リニューアルしたマンダリン オリエンタル バンコクに泊まりましたが、初めてふたりでバンコクに行ったのは二十五年くらい前。あの旅行で私はパクチーに目覚めました。

地曳 ありました、パクチー事件。あの時もふたりでマンダリン オリエンタルに泊まったんですよね。行きたいレストランがあって、トゥクトゥクの運転手に言って連れていってもらったら、どうも違う店で降ろされて。でもタイ語はわからないし、当時はグーグルマップもないから、確かめようがない。

P 「絶対ここじゃない気がします」と言いながら、店に入った記憶があります。入ると、お店の人がロブスターとか高そうなものを薦めてくるんだけど、いく子さんは全部無視してオーダーしていく。

地曳 ああいうのは特別料金だから。お店の人は不満そうでしたけど。

P で、料理が出てきて、ひと口食べると、「パクチーちょうだい!」っていく子さんが言ったんです。その時、私は、どうしようかと……。

地曳 苦手なのをカミングアウトしてなかった。だから私、ドバッと入れちゃったんです。

P はい。でも、いく子さんが「うん、美味しくなった!」って本当に美味しそうに食べてるから、「え、そうなの?」って、覚悟を決めてこわごわひと口食べてみたら、「ほんとだ! パクチーなしより劇的に美味しくなった!」と感動!

地曳 確かにパクチーって、ものによってちょっと味が違うみたいです。私が勝手に食べさせて、パクチーが食べられるようになった人、けっこういるんですよ。

P 以来、私もパクチーが大好物になりました。アジアだけでなく、中南米とか、世界中にパクチーを出す国は多いから、克服できて本当によかった。

地曳 パクチーは生姜と並ぶ毒消し薬のようなものですよね。最近は日本でも流行はやってきたけど、当時はそれほどポピュラーではありませんでした。

P いく子さんは何でも早いんです。二十五年前にハワイの「ダウントゥアース(Down to Earth)」を教えてくれたのもいく子さん。オーガニック製品が充実したスーパーマーケットで、私の『ひとりっぷ』でも紹介しています。

地曳 ただ私は、ひとりっPさんと違って、根っからの旅好きではないんです。面倒くさがり屋だし、出不精だし(笑)。でも、トークショーに呼んでいただいて日本全国を回ったり、コレクションや取材で海外に行ったりと、運命に導かれて旅をすることが多かった。あとは趣味のバンドの追っかけですね。そうやっていろんなところに行くうちに、自分が「井の中の蛙」であることに気づけたし、旅っていいなあと思うようになっていったんです。

P 今回、二十五年ぶりに一緒に旅をして、ふたり寄れば「文殊の知恵」状態でした。

地曳 そう。お互いが二十五年の間に培ってきた知識や情報を交換できて楽しかったです。

海外でいい店を選ぶ
ポイントは?

P この本でふたり旅をしたのはバンコクと台北ですが、どちらもエアーの手配は各自だし、台北ではホテルも別でした。私たちの旅って、「ひとりっぷ×2」という感じ。そもそも、旅のベクトルもけっこう違いますよね。

地曳 はい。私はあまり予定を立てないんです。というのは、さっきも言ったけど仕事やライブ目的の旅が多いから、それ以外は基本的におまけ。パンパンに予定を詰めちゃうと、メインのライブに影響する。だからあまり欲を出さないようにしています。ひとりっPさんはすごく調べますよね。そうやって違っているから発見があるし、面白い。

P 私の場合は、食と買い物がかなりメインで、とくに食に関しては失敗したくないから、事前に真剣に下調べをします。グーグルマップを見て、店の口コミを読み込んで、マッピングしておくという感じですね。現場に行ってからは、歩きながら、マッピングしておいた店を片っ端からチェックしていきます。

地曳 あれ、本当に便利ですよね。口コミも、旅人たちの投稿写真も参考になります。昔は、お店側が提供する写真しか見られなかったですけど。

P ホテルもそうです。今は真実が見られる時代になりました(笑)。だから調べて行けば、着いて「えーっ!」てことが少ないんです。一方、いく子さんは、調べてなくても、野性のカンが働きますよね。

地曳 歩いていて、ふと入った店が当たりだった、みたいな。

P そう! 今回、台北で行った担仔麺タンツーめんの店も、いく子さんが歩いていて偶然見つけた店でしたよね。生まれつき、何かアンテナを持っているとしか……。

地曳 でもいくつか、ポイントはあるんです。たとえばその店とか、あと台湾で入ったマッサージの店は、看板がカッコよかった。CDにおける“ジャケ買い”のような感じで選んだんです。レストランでいえば、働いているスタッフさんがすてきな店は、たいがい、料理もイケてる気がします。

P ですね。細部のセンスはすべてに通ずる。

地曳 はい。そしてこれは日本でもそうですが、お手洗いが綺麗な店は、いいお店だと思います。

P 確かに。

地曳 もちろん、外すことだってあるんですよ。そういう時は、レストランだったら一品でやめて、急用を思い出したとか、電話がかかってきたみたいな演技をして(笑)、「ごめんなさい」と早めに店を出る。チップは多めに置きますが、被害を最小限にとどめます。

P 勉強になります。この本には、機内やホテルでの過ごし方など、いろんな旅テクを書いていますが、実際にふたりで旅をして、ホテルでの振る舞いっていうんですかね、ちょっとしたコミュニケーションの取り方も参考になりました。バンコクのホテルで、いく子さん、カフェで隣になったマダムに「そのカフタン(ドレス)すてきね」って、さらりと話しかけていましたよね。

地曳 「サンキュー」とか、ちょっと、喋って。その後も、何度か偶然会って、話しましたよね。

P 私は旅行中、わりと壁を作るほうで、全然フレンドリーじゃないんです。だから、こういうコミュニケーションがあるのかと。

地曳 すごく仲良くなるというほどではないんです。ちょっとでいいのよ。私はひとりでライブを観に行くことが多いけど、途中でトイレに行ったり、何か買ってきたりしたいじゃないですか。だから最初に、周りの人に何となく自己紹介をして、席を外せるようにしておく。袖振り合うも多生の縁で、そうやって、世界中に友達ができていったんですよ。元々は母がそういう旅をしていたんです。ふたりで中国を旅した時、中国語も英語もできないのに、ひとりでタクシーに乗って、いつの間にか知り合いをつくって、漢方を買いに行ったりしていた。私の旅の仕方は母親譲りなのかもしれません。

旅をアップデートしていく時代

P どこにお金を使うかにも、旅人の個性が出ますよね。私の場合、時は金なりで、移動方法はコスパ換算して決めます。二十四時間を有効活用したいから。

地曳 バスで一時間のところをタクシーで十五分なら、タクシーでしょうと。五分くらいの違いなら安いほうにするけど。

P 私も、電車よりはバス派ですが、海外のバスは日本ほど運行がキッチリしていないことも多いんですよね。

地曳 ロンドンだったかな、グーグル先生にあと五分で来ると言われて待っていたのに、三十分来なかったことがあります。海外は地下鉄も注意が必要ですよね。突然止まっちゃうとか。

P そうなんですよね。海外の公共交通機関はなかなか信用できない……で、最近はUberを使うことが増えました。
 今回、旅の持ち物も公開していますが、示し合わせたように同じ物を持っていて、面白かったです。基本的にツアーに参加せず、個人旅行をしている旅人は、持ち物が似てくるんだなあと。

地曳 持ち物もそうだし、バンコク行くとき、空港で会ったら、ふたりとも同じような格好をしてましたよね。スーパー重ね着(笑)。

P そう! 着ている服一つひとつは違うんですけど、重ね方とか、ダウンを持ってきているとか、スタイルが一緒だったんですよね。何の打ち合わせもしていないのに、行き着くところは同じ。

地曳 今回の本は、自分の旅を振り返るいい機会にもなりました。旅が変化していることを実感したんです。基本的に持っていくのは、現地で手に入らなくて、自分が生きていくのに必要なものなんですね。だから行き先によっても変わってくるんだけど、たとえばコンタクトレンズの保存液は、今やソフトだったら、どこでも現地で手に入るじゃない?

P 売っています。なんならコンタクトレンズ自体も買えます。

地曳 でも、十年、二十年前は、簡単に手に入らなかったから、日本から持っていくしかなかった。やっぱり、コンビニ的な店が世界中に増えてから、持ち物は劇的に変わりましたよね。いろんな点で、旅をアップデートしていくことが必要だとあらためて思うんです。とくに今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、旅も大きく変わる気がしています。

P はい。自由に旅行ができないこの時期だからこそ、じっくりとこれからのプランニングをしたり、行きたい場所を考えたりしている人も多いようです。ぜひ『ふたりっぷ』を読んで練っていただけたら。

地曳 世界が変わると旅の仕方も変わるわけで、状況がどんどん変わるなか、何度も原稿を書き直しましたよね。今までは私はあまり予約をしないふらり旅が多かったけど、これから行くとしたら、ある程度は予約も必要になるだろうなとか。これからの旅に向けたテクニックも加えていますので、参考にしていただけたら嬉しいです。

P どれだけ旅をしても、どんな旅も勉強になるなっていつも思うんです。三十年前くらいに、初めて台湾に行った時は本当にびっくりしました。聞いてはいたのですが、台湾の人たちがとにかく親切で親日で。百聞は一見にしかずってこのことかと思って。

地曳 今回の台湾旅行もすごくよかった。旅は大変なこともあるけど、やっぱり楽しいよね。

P またふたりっぷも、ひとりっぷもできる日が来るのを祈って。

地曳 旅も人生も日々アップデートして頑張りましょう。

ひとりっP

ひとりっぴー●海外ひとり旅歴25年、ひとり旅回数400回以上。稀代の“旅バカ”にして雑誌「SPUR」の元編集長。
女性のひとり旅を「ひとりっぷ」と命名し、旅する女性を積極的に応援中。著書に『今日も世界のどこかでひとりっぷ』『明日も世界のどこかでひとりっぷ2 秘境・絶景編』『昨日も世界のどこかでひとりっぷ3 弾丸無茶旅編』。

地曳 いく子

じびき・いくこ●キャリア30年以上を誇るカリスマスタイリストにして、ソロトラベラー。
著書に『50歳、おしゃれ元年。』『服を買うなら、捨てなさい』『ババア上等! 余計なルールの捨て方 大人のおしゃれDo!&Don't』『ババアはつらいよ アラカン・サバイバルBOOK』等多数。

『たまには世界のどこかでふたりっぷ®

ひとりっP/地曳 いく子 著

7月28日発売・集英社ムック

本体1,300円+税

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