[本を読む]
青春小説以上に青春小説
青春小説の旗手が世に送り出した『できない男』は、著者初のお仕事小説でもある。選ばれた職業は、デザイナー。ともすれば説明が面倒くさくなりがちな職種であり、ましてやボスやチームメイトと組んで働く「社員デザイナー」の世界が舞台だから、お仕事描写だけで結構分量を食いそうなもの。が、総ページ数は二五六ページ。短いんじゃない。濃ゆいんだ。しかも、読み心地は軽やか。ベラボーに面白い。
まず登場するのは、東京から高速バスで二時間のところに位置する田舎町で、地元密着な仕事ばかりを引き受ける弱小広告制作会社のデザイナー、芳野荘介。二十八歳で実家暮らしの彼は、恋愛が「できない男」だ。年齢=彼女いない歴ゆえの童貞あわあわ感が、仕事やら女性とのコミュニケーションに滲み出ている。でも、悲壮感がないところはチャーミング。そんな荘介が、地元に新設される農業テーマパークのブランディングチームの一員に抜擢され、東京の超有名デザイン事務所で働く三十歳の河合裕紀と仕事をすることになる。裕紀はモテるし仕事は「できる男」だったが、元カノに二股をかけられたショックで新たな恋愛に踏み出せず、二股をかけられていたもう一人の男・賀川尚之となぜだか仲良くなって、日がなサシ飲みを繰り広げている。
二人目の主人公である裕紀に「覚悟が『できない男』」という設定を取り入れたことが、この小説にとって大きなブレイクスルーとなった。仕事が「できる/できない」という能力の問題とは違い、覚悟は本来「やる/やらない」という意思の問題だ。にもかかわらず「できない」の感情で塗り潰していたからこそ、河合裕紀は変われなかった。それは、芳野荘介も同じだった。賀川尚之もまた。
この小説は、「できる/できない」の価値観に
吉田大助
よしだ・だいすけ●ライター