[本を読む]
かつてない帰蝶で味わう
戦国の女の物語
これはまた何という
美濃を
だが篠綾子はふたつの工夫を加えた。
ひとつは帰蝶に姉がいた、という設定である。母親が身ごもったとき占い師から、娘が生まれれば二人の男から求められるが、一方の男がもう一方を
帰蝶を求めるふたりの男の一方がもう一方を殺すということで、歴史を考えれば、ああなるほどね、と思うだろう。だがその予想は半分しか当たらない。なるほど、こう来たか!
もうひとつの工夫は、物語の中盤にある。なんと帰蝶が信長の元を出奔するのだ。この帰蝶、かなり破天荒だぞ。
だがこれらのオリジナル設定には理由がある。篠綾子が本書で描きたかったのは、自分の生き方を自分で決めることが許されない戦国の女性たちなのだ。誰それの母、誰それの妻ではない、自分として生きたいと願う帰蝶。だがどうすればいいのかがわからない。そこで著者はさまざまな女性と帰蝶を対比させた。
父の側室、土田御前、信長の側室、その娘で後に徳川に嫁ぐ徳姫、そして出奔中に出会った京の女商人。光秀の妻も登場する。流されるだけの者、自分で道を切り開く者、夫に尽くすことが自分の道だと考える者、じっと耐え続ける者。
そんな人々と出会った帰蝶は、自分をもう一度見つめ直す。そして最後の場面で、迷うことなくある選択をする。背筋が伸びるラストシーンだ。
ロマンスの情趣もたっぷり。女性はもちろん男性にもお楽しみ頂きたい。
大矢博子
おおや・ひろこ●書評家