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しん『音と光の世紀 ラジオ・テレビの100年史』(集英社新書)を佐藤卓己さんが読む

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「放送一〇〇年」という節目の年に

「戦後八〇年」や「昭和一〇〇年」を冠した特集が多くのメディアで企画された。しかし、石破茂元首相の「終戦所感」を含めて記憶にほとんど残っていない。というのも一九四五年に「終戦」を実感できたのは北方領土と沖縄を除いた日本本土だけで、大陸では国共内戦が続き、半島でも朝鮮戦争が起こった東アジアで「戦後八〇年」は共有できる記憶ではない。また、西洋史研究出身の私には「昭和」の元号で歴史を考える習慣もない。メディア史家の私にとって今年は何よりも「放送一〇〇年」だった。
 本書は、その一〇〇年を放送担当の記者が総括した「本年の一冊」である。「戦後八〇年」を謳う新聞連載に加筆されたものだから、第二章「戦争への道」と第三章「放送の民主化」が一九四五年で区切られているのは仕方ないことだろう。とはいえ、敗戦時にも占領下にも一日も中断しなかったメディアの連続性が、最新の研究を引用しつつ描きだされている。
 たとえば、今日のNHK受信料制度と同じように、戦前からラジオ聴取料は国ではなく放送事業者が徴収していた。これは所管する逓信省ていしんしょうが他省の介入を防ぐために立法化を避けたことに由来する。こうした行政システムの連続性が反権力ならぬ「半権力」としての公共メディアの性格を規定している。「NHKの歴史上、政府与党など政治権力と対立、対峙した例はほとんどない」と元NHK視聴者広報室長の言葉が引用されているが、それは民放テレビ局の株主である新聞社にも当てはまることだろう。
 選挙報道の自主規制問題、ジャニーズ問題、中居正広・フジテレビ問題などのスキャンダルも、第五章「局内外のせめぎあい」で歴史的背景に遡ってわかりやすく説明されている。こうした知識は、デジタル化した放送が丸ごとネットに飲み込まれる近未来を生きるために必要なものだ。私たちは堅実に「バックミラーを覗きながら前進する」べきであり、放送の公共性を考える上で本書が役立つことはまちがいない。

佐藤卓己

さとう・たくみ●メディア史研究者

『音と光の世紀 ラジオ・テレビの100年史』

原 真 著

発売中・集英社新書

定価1,089円(税込)

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