[受賞記念エッセイ]
灰汁
更地 郊
話作りはカレーと同じ、どんな具材を入れようが肝心のルーでまとめれば良し、と中年漫画家とその息子の日常を描いた室井大資氏の傑作漫画『秋津』で読んだ。じゃあ拙作『粉瘤息子都落ち択』のルーは何だったのか。鍋に投下したっけか。
昨夏、公募に落選してからは
応募期限まで三週間をきった頃、ポメラが逝った。充電端子が飲み水に浸っていたらしく、本体へ挿した途端に画面がブラックアウト、最後に白いグリッチが走り、臨終。過失致死。幸いにもデータはSDカードに保存しており、PCに移せば作業できたが、この時期に愛機の死とは滅入る。大体、終盤の構想はおろか作品名も未定という体たらく、間に合わん。気乗りしないが応募サイトから応募用テンプレファイルを取得、文を貼り付けた。─美しい。縦書き明朝体だと小説のよう。ポメラでは横書きゴシック体表示だったから尚更。なのでこれは小説なのだと思い込むことにした。もはやルッキズムだが、そのお陰で残りの文章が出来た。
そして十一月の麻雀の負け分を返済する豪運の

撮影=下城英悟
更地 郊
さらち・こう●東京都在住

『粉瘤息子都落ち択』
単行本・2026年2月5日発売予定




