[本を読む]
これが夢枕獏流の秘境冒険小説だ。
そうか、今度はコナン・ドイルの『失われた世界』と、ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を意識しているのか。このたび決定版として刊行される、全五巻の大作『大江戸恐龍伝』の最終巻に付された「あとがき」を読んだとき、深い感慨を覚えずにはいられなかった。というのも夢枕獏は、本書以前に〝恐竜〟の出てくる秘境冒険小説を執筆しているからだ。地虫平八郎という主人公が活躍する『黄金宮』のことである。
作者は『黄金宮』第一巻の「あとがき」で、ライダー・ハガードの有名な秘境冒険小説『ソロモン王の洞窟』を意識しながら自分流の物語にし、そこに山田風太郎の忍法帖ものをブレンドしたといっている。どちらのジャンルも大好物であり、私のために書いてくれた物語だと狂喜乱舞したものだ。
しかし『黄金宮』は、第三巻から恐竜が出てくるものの、次の第四巻で中断。だから舞台が現代から江戸になり、恐竜が恐龍になっても、あらためて作者の秘境冒険小説が読めたことに、感動してしまったのだ。また、『月に呼ばれて海より
周知のように平賀源内は、江戸の本草学者にしてマルチクリエイターだ。才能がありすぎて、ひとつのことに専念できない。そんな源内のキャラクターを、作者は大通詞の吉雄耕牛との会話によって、巧みに表現。さらに円山応挙や上田秋成など、さまざまな実在人物と絡めながら、龍を巡る壮大なドラマに接近させていく。第一巻はプロローグであるが、早くも面白くてたまらないのだ。
ちょっとだけ先のことを書いておくと、秘境へと向かった源内は、恐龍や神女と遭遇。さらにその後のストーリーも波乱に富んでおり、ページを繰る手が止まらない。この決定版で、源内の冒険を最後まで見届けてほしいものだ。
細谷正充
ほそや・まさみつ●文芸評論家





