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受賞記念エッセイ/本文を読む

第38回小説すばる新人賞
平石さなぎ「フルベットな小説家人生」
受賞作『ギアをあげた日』

[受賞記念エッセイ]

フルベットな小説家人生
平石さなぎ

 私の尊敬している警察官が言っていた。
「人生はすべて博打ばくちだぞ!」
 目に浮かぶ光景がいくつかある。空を舞う馬券ばけんの紙吹雪、くぎの森にもてあそばれながら落ちていくパチンコ玉、回転するサイコロの1の目の、鮮やかな赤。私もたまにギャンブルをする。馬券を買ったり、 玉を打ったり。 小躍りした瞬間があれば、数分前の自分に掌底しょうていを見舞ってやりたくなった瞬間もある。
 日常生活のなかでも、 「これはもう、実質ギャンブルだ」と感じることがある。受験、就職、恋愛、友人、家族関係。どれも努力すればなんとかなる部分がある反面、やっぱり努力ではどうにもならない部分も存在している。そこにどれほどの時間と愛を注いでも、失うときは失ってしまう。運とかタイミングって意地悪だ。
 だから、 「はっきりした未来は予想できない」 。
 それでも、 「たくさんの選択肢からひとつを選ぶ」 。
 このふたつを繰り返すことが人生なら、やっぱり警察官の言うとおり、人生はすべて博打なのかも。
 小説もそうだ。誰かの人生をえがいた物語だから、どこかに〈け〉の瞬間がある。主人公が、おおきな決断をするとき。はっきりした未来は予想できないけど、たくさんの選択肢からひとつを選ばなきゃいけないとき。
 けれど不思議なことに、主人公が賭けに成功したからといって、物語がハッピーエンドを迎えるとはかぎらない。逆もしかりで、失敗したからといってバッドエンドになるともかぎらない。その敗北からうまれた景色が、思いがけないハッピーエンドを連れてきてくれることもある。
 人生も小説も博打も、私は得意かどうかわからない。人生に関しては一周目だし、小説に関しては新人賞に落ちまくってきたし、博打に関してはシンプルに負けてきた。好きだから続けている。
「人生はすべて博打だぞ!」
 私の尊敬する警察官、あらため両津勘吉りょうつかんきちの言葉を胸に、これからも自分の「好き」を追いかける。その賭けに勝とうが、負けようが、目のまえにはきっと見たことのない景色が広がっている。それでいい。


撮影=神ノ川智早

平石さなぎ

ひらいし・さなぎ●1997年京都府生まれ

『ギアをあげた日』

単行本・2‌0‌2‌6年2月26日発売予定

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