[連載]
第23回 カバーアーティスト
小前光さん
「黄金の果実」をなぜ消したのか
絵を描くやり方として、僕の場合は大きく2パターンあります。一つは描きたいものやイメージの最終形が頭の中に定まっていて、そこに向かっていくパターン。もう一つが、ゴールが見えていない状態で、何も考えずに自由に動き出すパターン。表紙は、二つ目のパターンで描いた作品です。
描いては消すを繰り返しているうちに木の枝のようなものが生えてきて、その周りに円を描きたくなったんです。円を黄色に塗ったとき、これは林檎だと気づきました。林檎は『聖書』に出てくる禁断の果実としてよく描かれます。アダムとイブは果実を食べたことで知恵を得た。人間の知恵の象徴という意味での果実が、自然に出てきたというわけです。
でも本当に自分の中から出てきた、いわばオリジナルなものかと考えたら、そうではないだろうと。東京藝大の油画専攻は、西洋絵画を学ぶために始まった学科です。林檎は西洋絵画にたびたび登場するモチーフであることを考えると、自分がいる場所の根っこを描いたに過ぎないと気づいて消したくなった、というのが、この絵の説明です。〈痛み、林檎の絵が消された後に起こった出来事〉と名付けました。
個展などを開き作家活動をおこなっていますが、プロの作家としてやっていくには、自分のブランドを確立する必要があると思っています。でも今はまだ、ふわふわと漂っていたい。20代はお金と語学と歴史を重点的に勉強して、勝負はそこからだと思っています。
<藝大生に聞く!Q&A>
Q 好きな本
『個人的な体験』(大江健三郎 著)
Q 最近興味のあること
英語と歴史
Q 憧れのアーティスト
デイヴィッド・ホックニー
Q 東京藝大はどんな大学か
自由に自分の制作に向き合える
Q 今後の展望
海外で活躍できる作家になること。〝作家〟が何を指すか、まだ明確ではありませんが、日本以外の国でも広く動いていきたい
小前光
こまえ・ひかり●2002年生まれ。
兵庫県出身。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻3年。
Instagram/@gogohikaring