[本を読む]
わが町もこれに狙われました
「自治体をぶんどる過疎ビジネス」。弱小自治体に救いの手を差しのべるふりをして接近し、官民連携事業を仕掛け、行政機能を侵食して公金を吸い上げようとする企業のやり口を著者はこう呼ぶ。
「私企業が行政をぶんどる? ずいぶん大げさだな」と言うなかれ。これはまさに官民連携事業をいくつも請け負ってきた会社の社長自身の言葉なのだ。地方紙の雄・河北新報の記者である著者が取材中に手に入れた録音データの中で、その界隈では名の知れた若手社長は言い放つ。
「財政力指数が〇・五以下(の自治体)って、人もいない。ぶっちゃけバカです。現場の(職員の)人には無理です。そういうときに、うちはいま『第二役場』っていう。機能そのものを、ぶんどっている」
このトンデモ社長は総務省所管のアドバイザーという肩書きを生かして小さな自治体に入り込む。そして、提案事業を予算化する際、自社が利益を得られるスキームを組む。最後の関門は議会だが、社長は録音の中で「(地方議員は)雑魚だから」とも言っている。かくして、公金つまり血税を原資とする自治体の事業は、あえなく民間企業の餌食になるわけだ。
あまりにも地域や住民を愚弄した話だが、このことが福島県のある自治体の事業をきっかけに明るみに出て、さらに全国に同様の案件が多数あることが判明していくプロセスは、並みのミステリーよりずっとエキサイティングでスリリング。「何かがおかしい」と直感し、綿密に取材を重ねて大胆に記事化してきた著者のジャーナリスト魂に読み手も心が熱くなる。同時に議会や住民にももっと闘ってほしい、と思う。
実は、私が今いる北海道の町にもこの社長がアドバイザーとして入り込み、危なく恐竜カムイサウルスの化石が鎮座する穂別博物館の事業が乗っ取られるところだった。いかにしてわが町が“ぶんどられる”のを阻止できたのかは、本書にもくわしく記されている。ぜひ読んで、「お任せ民主主義」と今すぐ決別する覚悟をすべての人に持ってほしい。
香山リカ
かやま・りか●むかわ町国民健康保険穂別診療所副所長