[本を読む]
女性の現況を変えるために
熱い意志から生まれた一冊
子どもを産むか産まないか、産むとしたらいつ、何人産むかを、自分で決められること。そのために必要な教育とケアを受けられること。そして、望まない妊娠をしてしまったときには安全で安価な中絶ができること。その前に確実な避妊手段を手軽に入手できること。こうした「リプロ(生殖、生命の再生産)の権利」は、女性たち(もちろん、責任ある男性たちも)がそれぞれの人生を納得のいくものにしうるために不可欠の条件として保障されるべきだろう。だが日本の現状はどうか。一方では、子どもを産んだ女子生徒が退学を
このような状況を変えるためにリプロの権利を現実のものにしようとする著者の熱い意志から生まれたのが本書である。内容的には、リプロの権利をめぐる世界の情勢と対比しつつ、日本の課題が詳細に論じられている。類書に比べて特徴的なのは、近年広まりつつある「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」全般を薄く広く論じるよりも、あえて「女性・少女(および妊娠しうるからだを生きる人々)」にとっての生殖をめぐる権利に的を絞っている点だろう。リプロをめぐる重荷を主に負わされるのが女性であるという現実を真摯に見据えた姿勢だと思う。
本書には、新書というフォーマットが許す限りの豊富な情報が詰め込まれているが、当然ながら十分に深められなかった論点もある。女性の自己決定にもとづいて進行しうる出生前診断や選択的中絶などをどのように考えるかという難問もその一つだ。だが、そうした問題も含めて、今後「リプロの権利」について何かを言おうとする人すべてにとって、本書は必ずふまえるべき土台を提供する一冊であると言える。
加藤秀一
かとう・しゅういち●社会学者