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第23回開高健ノンフィクション賞受賞作発表/本文を読む

第23回開高健ノンフィクション賞受賞作発表小松由佳『シリアの家族』
【受賞の言葉】写真家として、母として、妻としての共同制作
【選評】加藤陽子/姜尚中/藤沢 周/堀川惠子/森 達也

[第23回開高健ノンフィクション賞受賞作発表]

第23回開高健ノンフィクション賞受賞作発表

正賞=記念品
副賞=三〇〇万円
主催=株式会社集英社
   公益財団法人一ツ橋綜合財団

【受賞作】
『シリアの家族』 小松由佳
【選考委員】
加藤陽子/姜尚中/藤沢周/堀川惠子/森達也 (五十音順・敬称略)
【選考経過】

第二三回開高健ノンフィクション賞は、二〇一編の応募作品のなかから慎重に検討し、左記の通り最終候補作を選び、七月一三日、選考委員五氏によって審議されました。その結果、上記の作品が受賞作と決まりました。

【最終候補作品】

『ルポ 被爆二世』  小山美砂
『上方講談戦記 ポンコツ弟子の修業日記 2018~2025』  玉田玉山
『点滴連続殺人事件 生と死の淵で』  田崎 基
『シリアの家族』  小松由佳

受賞の言葉―― 小松由佳
写真家として、母として、
妻としての共同制作

 この度は、開高健ノンフィクション賞を賜り、身に余る光栄です。
『シリアの家族』は、二〇一一年以降、内戦状態となったシリアやその周辺国を舞台に、人々がどのように故郷での暮らしを失い、異郷に生きてきたのか。難民になるということ、故郷を失うということがどういうことなのかを描いた作品です。同時に、シリア難民の一人である夫を持つ私自身の、セルフドキュメンタリーでもあります。
 当初この作品は、終わりの見えないシリアの動乱に翻弄され、故郷への帰還を夢に見ながら異郷に生きるシリア難民をテーマとする予定でした。
 しかし二〇二四年一二月八日、半世紀以上の独裁を維持したアサド政権が突如崩壊し、その直後、夫とともに政権崩壊から間もないシリアを目撃したことで、私自身が全く予想していなかった波乱の展開となりました。シリアの激動に自ら身を置き、刻々と移り変わる歴史の生々しさに、心を揺り動かされながら筆を進めていったのが、この作品です。
 作品全体を通じて表現したかったことは、人間が、それぞれの環境を懸命に生きているということ。それぞれに、かけがえのない人生がある、ということです。
 かつての豊かだった砂漠での暮らし。それをたった数年で失い、故郷を思いながら難民として亡くなった義父。安定した生活を夢見て、小さなボートでドーバー海峡を命がけで渡っていくシリア人移民たち。アサド政権下、逮捕され、戻ることのなかった人々。執筆において特に意識したのは、こうした、やがて時の流れに埋もれていってしまうだろう人間の声や思いを、丁寧に拾い上げていくことでした。
 その作業は、写真家として、母として、妻としての、異なる立場の複数の私による共同制作でもあります。なかには、非常に個人的なエピソードも含まれていますが、それを作品として昇華させることで過去の自分と訣別けつべつし、新しい自分を生きることを決意したものでもあります。
 さらにこの作品を通して私は、作品の登場人物たちが、私とシリアとをつなぎ、フォトグラファーとしての道や、アサド政権崩壊後まで続く取材へと導いてくれたのだということにも気付きました。そうした意味で彼らが、今の私を築きあげたのだと言えます。なかには、すでにこの世を去った人物も少なくありませんが、この作品をつづることで、私は彼らに何度も出会い、その存在を感じることができました。
 これまで不安定な経済状況のなかで、情熱をもって取り組んできたシリア難民の取材。それを今、ひとつの作品として世に送り出すことができ、このような栄誉ある賞として評価いただいたことを、大変うれしく光栄に思います。この受賞を今後の活動の糧とし、これからもシリアの人々の生き様を見つめていきます。

第23回開高健ノンフィクション賞選評
シリアの「道を歩いてる人の意見」を書き留められる人
加藤陽子

 小山美砂氏の『ルポ 被爆二世』。新聞などのメディアは、戦後八〇年といった枠で戦争の記憶の継承を図るも、いかんせん若い人々が新聞を読まなくなった現実がある。そのような時代にあって著者は、「逃げたい」と弱音を吐きつつも、一九六〇年代や七〇年代に地域に根を下ろした被爆二世の運動の軌跡をしかとおさえる。今後、米国側資料をも咀嚼そしゃくしてゆけば、著者の選んだ記憶の継承方法の有効性が近い将来、見えてくるに違いない。
 他分野における文学の担い手を見出す目利きだった故福田和也が世に出した立川談春『赤めだか』の向こうを張れる作品が現れた。玉田玉山氏の『上方講談戦記 ポンコツ弟子の修業日記 2018~2025』である。落語は「演者の演技を起点に演者の背景にぐわっとそのはなしの景色が広がっている」感じであり、講談は「演者の口から語られる言葉が演者の目 の前に景色を組み立て」る感じだと二つの芸の違いについて看破する著者。「問い」への答えを文章で書かせた師匠・玉田玉秀斎ぎょくしゅうさいの鍛錬が著者の文体を磨いたか。四代目旭堂きょくどう南陵なんりょうが亡くなる場面に至るまでの文章の呼吸には度肝を抜かれた。この人は死ぬのだなということが五頁前あたりで何故か読み手に伝わってくる。ヘミングウェイの『海流のなかの島々』 を読んだ時の気持ちを思い出した。選考委員全員が認めた、文句のない次点作品。
 田崎基氏の『点滴連続殺人事件 生と死の淵で』は、事件のあらましと展開を描く冒頭部分はエンターテインメントに徹した筆致で、ページをめくる指の動きがもどかしく感じられた程だった。だが、事件の発覚が二〇一六年九月、容疑者の逮捕が二〇一八年七月七日だとの尋常ならざる捜査期間の長さに思い至った時、どうしてもその理由と背景が知りたくなるし、事件現場となった病院の実態についても解明する手だてをなお尽くしてもらいたいとの気持ちにとらわれてしまう。埋めるべきピースを幾つか残したままの作品に見えたのが残念だ。
 今回、圧倒的多数の選考委員が満点をつけた小松由佳氏の『シリアの家族』。最も感銘を受けたのは、書き手自身を取り巻く「人間」を、シリアの政治と歴史への深い理解とともに厚みをもって描ききった著者の力量である。開高健『輝ける闇』には、開高その人と目される従軍記者の主人公に対し、大隊内での後見人ウェイン大尉が、日本人のベトナム戦争観を尋ねる印象的な場面がある。大尉が知りたがったのは「道を歩いてる人の意見」だった。『シリアの家族』を読んでいると、シリア人の配偶者を持つという特性に依拠するのではなく、著者が、シリアのふつうの人々、道を歩く人々を身体ごと理解しえているのではないかと思わされる場面に何度も出くわす。何故著者にはそれができたのだろうか。著者は、義父ガーセムをはじめとする家族が生まれ、生活した安寧の土地パルミラを奪った政治権力と命がけで対峙たいじする旅を完遂した。闘った人だけが、見ることができた。

一瞬の光芒が眼前に浮かんできた名作
姜尚中

 ノンフィクションが、報道と違い、また文学とも違うのは、それが、足と腹と皮膚と骨で書く(開高健)ように、見る、聞く、感じるといった、一次体験の強度によって支えられているからである。
 ノンフィクションの面白さ、エンタメ性は、そうした一次体験の強度を文学的なスタイルを借りて深められるかどうかにかかっている。エンタメ性があれば、一次体験の強度が文学的なスタイルにまで昇華されるわけではないのだ。
 こうした点で、玉田玉山さんの『上方講談戦記』は、ハチャメチャな修業の現場を描く面白さ満載の作品だが、真実の複雑さを体験と言葉で伝えるノンフィクションのレベルに達しているとは言い難かった。
 田崎基さんの『点滴連続殺人事件』は、院内でのいわば作為的な連続「安楽死」に手を染めた一看護師を追うことで終末期医療の深い闇にメスを入れようとした注目すべき作品だ。ただ、事件記者的なスタンスに終始し、一次体験の強度が伝わって来ない。その決定的な要因は、くだんの看護師への直接取材が果たされなかったことにあるのではないか。
 小山美砂さんの『ルポ 被爆二世』は、それこそ、被爆と遺伝との因果関係にまつわる複雑な現実を必死で言葉の力で伝えようとする秀作だが、心理の深掘りや詩的な比喩、物語の構成といった「文学的なノンフィクション」に不可欠な要因が希薄だった。そして何よりも、被爆の「遺伝的影響」と関係する優生学や優生思想の深い洞察が欠けていた。
 結局、現実の中の生の実感と人間の真実に一次体験の強度をバネに迫ることができた作品は、小松由佳さんの『シリアの家族』だった。その圧倒的な一次体験の強さとその強さに負けてしまわないフォトジャーナリストとしての自負とプライド、そして生死を彷徨さまよう中でも女として、母として、その与えられたアイデンティティ(正体性)を潔く受け入れつつ、それでも果敢にシリアをめぐる現実の複雑さ、その歴史的な重み、さらにそのすごみを探求し、文学的なノンフィクション作品にまで昇華させた「腕力」に評者として脱帽せざるをえない。
 戦場のルポライターが、女性であっても、そのほとんどが「単身者」であったことを考えると、ここに「子連れのフォトジャーナリスト」が誕生したことを祝福したい。
 シリア人の夫とちぎりを結び、二人の子供を育て、シリアの大家族の仕来しきたりに打ち解け、その旧き良き時代の大家族のユーフォリアに満ちた世界をフィルムに留めておこうとする執念と覚悟は、感動的だ。そこには、悲劇を通じてしか見えないものが輝いている。シリア内戦を通じて廃墟と化したベドウィン的な大家族の幸せな記憶、その一瞬の光芒が眼前に浮かんできそうだ。名作である。

この人にしか、の迫真力
藤沢 周

 あの残虐無比の独裁者アサドが、自ら国を荒廃させたままついに亡命したか。
 そう我々はテレビやネットニュースで、シリアという国の惨状を見ていた。だが、この「残虐」「独裁者」「荒廃」「亡命」等々の見出しやテロップの文字を、どれだけの切迫度で捉えていただろうか。言葉だけではなく、もはや言葉にすらできぬ過酷な日常を現実として生きた/生き続ける女性がいる。小松由佳、今回の受賞作『シリアの家族』の著者である。シリア政府軍から脱走した難民を夫に持つフォトグラファーが、内戦や政権崩壊などの激動の真っ只中を生き抜き、その地の人々の声、息遣い、心、魂を微に入り細を穿うがつ筆致で描き出した。いや、描出以前に、生身の声であり、涙であり、笑いであり、怒りであり、生活者としての感情があふれ出したと言っていい。つまり、宗教や民族、国家、政治体制の複雑に絡み合ったシリア情勢を報告・分析した凡百のニュースや論考、いかなるレポートも及ばぬ、この人にしか書けない、という絶対的な固有性の迫真力である。ベドウィンの質素で穏やかな暮らしも、それを徹底的な残酷さで破壊するアサド政権や政府軍も、シリア北西部から進軍した反体制派も、あるいは、「人間虐殺の場」であるサイドナヤ刑務所でのすさまじい拷問も、読者にそれらを生きてしまったと感じさせるほどの筆力があるのだ。虚構を超えるノンフィクションという事実の凄みとともに、そのノンフィクションの底を流れる私小説性とでもいった文学的な力まではらんだ本作。受賞作に推す。
「人を幸せにする物語を語り続ける」ことが講談である、という玉田玉山『上方講談戦記』は伝統芸能の厳しさにまれながら、師匠や人々との縁によって講談師となっていく修業記で、やはり、この人にしか書けない力作である。ある種の青春小説の趣と、著者のお手の物である自己戯画化のレトリックでぐいぐい楽しく読ませる。若者たちに勇気と元気を与える物語としても本作の出版を望みたいほどだ。ただ、面白く読ませるための芸人魂ゆえか、嫉妬・羨望・憎悪・絶望などが渦巻く過酷な世界を笑いで覆ったのは、むしろもったいなかったか。病的な自己内省と内面の地獄を描き出していたら、逆に講談という世界の畏るべき深さが表現されたと思う。
 田崎基『点滴連続殺人事件』と小山美砂『ルポ 被爆二世』も現代における重要なテーマを提示。ただ前者は、殺人をするためにアリバイを作るのではなく、アリバイのために殺人を犯し続けるという稀有けうなる事件を追いながら、途中で「死刑制度」という別稿のような作品へとずれていくのが残念。後者も真摯な筆致で被爆二世差別と優生思想を追っていくが、取材と「自らの中の差別」についての検証に徹底性を欠いていたか。その弱さを補強するためにある種のセンチメンタリズムが顔を出した。さらに日本と世界の政治・経済優先主義、穴だらけの法律を問うテーマを追い続けてほしい。

拝啓 玉田玉山さま
堀川惠子


(C)MAL

 初めまして、五人の選考委員の中でもっとも若輩の堀川惠子と申します。最終候補四作に、あなたの『上方講談戦記 ポンコツ弟子の修業日記 2018~2025』というタイトルを見たとき、正直、「コレはないな」と思いました。神田伯山さんのような人気講談師でもない無名の三五歳が、いきなり三〇〇ページ近い自伝ですから「読むの、キツッ!」と恨めしくも思いました。
 さてとページを手繰る。高座に上がると客席には数人チョロチョロ、あなたは大事な場面で台詞を忘れる。声ばかりデカくて、苦しそうに顔をしかめるお客さんまで。妙に不器用で人間関係うまく回らず、何のための努力なのか先行きも見えない、回り道ばかりで傷だらけ、挙句、鬱で倒れる。あなたが自嘲するように、「皆さまの人生や社会の変革にはお役に立たない愚かな姿」が満載です。
 そんなあなたの作品を、私は選考の最後まで、ひとり孤独な応援演説で推し続けました。あなたは社会になじめず、絶対安全な大きな流れに乗れない。マイノリティの悲哀を抱え、孤立し、内にこもる。「ここだけは譲れない」と、よく分からぬ何かを頑固に守ろうとする。「語り(文章)」と「身体性」の分かちがたいつながりを肌感覚で知っている。自分の膝と座布団の間合いが詰まる一瞬を、緊張感をもって紡ぎだす筆力がある。何のための講談なのか、無価値の価値をどこに見出すのか、ひとを幸せにするってなんなのか。今日び誰も本気で向き合おうとしない大きなテーマを、あなたは小さな世界で必死に考えている。つまりあなたには、すでに作家としての資格がある。磨けば光を放つであろう気配がなくもない。
 選考委員全員による点数評価で、あなたは次点でした。受賞できなかったのは、悪いけど私の力不足ではありません。今回の受賞作『シリアの家族』は、世界が抱える矛盾を独自の視点で描ききった秀作でした。上方講談とはハナから土俵が違う。戦車と竹やり。竹やりには竹やりの良さがあるのだけれど、そこは議論にならなかった。
 他の二作は元新聞記者による作品でした。小山美砂さん『ルポ 被爆二世』は難しいテーマに挑みましたが、基礎的な取材が不足し、取材対象者との距離感が気になりました。田崎基さん『点滴連続殺人事件』も挑むに値する社会課題ですが、新聞連載の域を出ませんでした。
 玉山さん。今回、運はあなたに味方しなかった。それでも才能の発掘が開高賞の使命のひとつであるならば、私はこのかすかな輝きを見逃したくない、そう思いました。かつて私自身が誰かに見出されたように。
「玉山さんの作品は、直木賞の方がいいんじゃないか」とおっしゃったのは、姜尚中さん。芥川賞作家の藤沢周さんも、言葉を濁しつつ賛同されました。直木賞に怒られそうですが、そう、挑戦の舞台はなにもノンフィクションだけじゃないのです。書くことをあきらめないで下さい。
敬具

敢えて苦言を呈す
森達也

 ポジティブな評価については他の選考委員が書いてくれると思うので、僕は(えて)ネガティブな評価を中心に書く。
『ルポ 被爆二世』は、読み始めてすぐに違和感に気がついた。例えば以下の記述。
 被爆二世の当事者には「影響があると言っても怒られる、ないと言っても怒られる。だからこの問題は難しい」と聞かされ、うーんとうなるしかなかった。
 複数の当事者における分断や二律背反は、水俣病にしても沖縄基地問題にしても原発誘致においても、つまりこうした社会問題においては常に直面する課題だ。今さらうなることではない。このテーマを取材することの困難さについて「差別について書くときは自分の中の差別意識と対峙たいじしなければならない」との宣言も含めて、とても当たり前で大前提のはずだ。被爆の遺伝的影響が科学的な知見を定めづらいことは確かだ。それを気づかせてくれた。でも全編を通して、この「針小棒大」で幼い自己陶酔が気になった。
『上方講談戦記』は面白く読んだ。もちろん「面白く」はひとつの要素だ。これだけでは足りない。受賞は無理だ。でも重要な(そして軽視されがちな)要素ではある。さらに著者の玉田は、先輩たちに対して相当に辛辣な描写もいとわない。肝が据わっているのか。あるいは相当に「KY(空気読まない)」なのか。どちらにせよ稀有けうな才覚は感じる。
 刑事司法における精神鑑定と死刑制度の問題点を提示した『点滴連続殺人事件』は、テーマの設定においてはまったく同意する。でも構成が成功していない。事件の解明と精神鑑定と死刑制度の問題と医療現場の問題が、ほぼパラレルなのだ。主軸はどれか。幹が何本もある樹のようだ。さらにもっと致命的な欠陥は、久保木愛弓あゆみの声がまったく聴こえないこと。終盤で言い訳のように、判決確定後に何度も手紙を送ったと記されているが、裁判中でも手紙は書けるし面会だって申請できる。簡単に返信が来ないことなど当たり前だ。家族や弁護士に仲介を頼むことだってできるはず。彼女の精神状態が最大のテーマであるこの取材で、なぜ彼女の声を聴くことへの努力を怠るのか、僕にはまったくわからない。
 シリア人の夫を持つ小松が書いた『シリアの家族』は、彼女が持つ貪欲なまでの取材への意欲と、妻であり二人の幼い子を持つ母でもある意識とのあいだの振幅に圧倒された。振幅はそれだけではない。イスラムにおける女性の位置への戸惑い。異邦人であると同時に異教徒でありながら家族の一員でもある葛藤。でもそれらをすべて包み込む義父ガーセムと家族の深い懐と愛。
 ニュースでは見聞きしていたがサイドナヤ刑務所の凄惨な状況については、小松の五感を通して、独裁政治の無慈悲さをリアルに感知できた。本作のもうひとつの特徴は、秘密警察も移民となったシリア人も政府軍兵士もイラン軍兵士も、すべて等身大の人間として描かれていること。標的は専制的なシステムであり個々の人ではない。その実感は共有できた。

小松由佳

ドキュメンタリーフォトグラファー。
秋田県生まれ。2006年、世界第二の高峰K2(8611m/パキスタン)に日本人女性として初めて登頂。植村直己冒険賞受賞。風土に根差した人間の営みに惹かれ、草原や砂漠を旅しながらフォトグラファーに転向。2012年からシリア内戦・難民を取材。『人間の土地へ』(集英社インターナショナル)で第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞。

加藤陽子

かとう・ようこ

姜尚中

カン・サンジュン

藤沢 周

ふじさわ・しゅう

堀川惠子

ほりかわ・けいこ

森 達也

もり・たつや

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