[本を読む]
命を孕む「女」たちの深淵を綴る
定期健診で切迫早産であると告げられた主人公は、順調な妊婦生活から一転して入院生活を余儀なくされる。「危ういところだった。失うかもしれなかった」。切迫早産とは、その状態が継続すると早産に進んでしまう状態をいう。胎児が子宮で十分に育ち切らないまま生まれてくることはその子の命に関わるため、母親は徹底して安静にしていなければならない。作家として忙しい毎日を送っていた彼女にとってそれはとてつもなく長い時間である。本作は、「人間のいのちを、この世にひとつ増やすこと。そんなだいそれたことを、さしたる葛藤もなく」選択できるものかと問う。
なぜこんなことになってしまったのか。つい自分のせいにしてしまう彼女が記憶を辿ると、かつて子宮筋腫があると診断した医師の「結婚したのは、十年前ですか」という心ない一言があった。罪科のあるなしを決めるのが世間であり、その世間が「女ではなく、男の意見で成り立っているものだとしたならば」、「女」はいつの時代も責めを負うのだ。結婚後「あと一冊出せたら子どもを産もうかと」考えていた彼女は、今ようやく命を授かり、そのために四苦八苦している。
「女」たちの命を
小川公代
おがわ・きみよ●英文学者、上智大学教授