青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌

定期購読のお申し込みは こちら
年間12冊1,000円(税・送料込み)Webで簡単申し込み

ご希望の方に見本誌を1冊お届けします
※最新刊の見本は在庫がなくなり次第終了となります。ご了承ください。

本を読む/本文を読む

しろやぎ秋吾『白兎しらと先生は働かない』を外山 薫さんが読む

[本を読む]

軽やかな「ダメ教師」から学ぶこと

「働き方改革」という言葉が定着して10年が経つ。かつて不夜城を思わせたオフィス街のビル群からは早々に照明が消え、男性の家事育児への参加も当たり前となって久しい。職場と生活は分離され、滅私奉公といった概念は昭和や平成の遺物として風化しつつある。
 しかし、時代や社会が変わる中でも、変化の波から取り残された職業がある。その最たる例が教師だ。授業や部活、生活指導とその業務範囲は広大で、常に完璧を求められる立場は替えが利かない。聖職者という呼称も相まって、その働き方はある種、不可侵のものとされている。
『白兎先生は働かない』では、そんな教師像を真っ向から否定する「白兎先生」がキーパーソンとして描かれる。部活の顧問を拒否し、定時で帰ってパチンコに熱中し、「めんどくせぇ」と口に出す。どこからどう見てもダメ教師だ。しかし、物語を読み進めていくうちに我々は迷う。間違っているのは白兎先生ではなく、一労働者にすぎない教師に対し過度な自己犠牲を求める社会なのかもしれないと。
 定時後や土日の稼働を前提とした部活動、プールの給水栓を締め忘れた教師が個人で賠償する仕組み、非正規でも変わらぬ責任の重さ――。やりがい搾取で成り立つ学校で苦悩する教師たちと、我関せずで飄々ひょうひょうと生きる白兎先生の姿は、現代日本における教育現場の惨状と矛盾を容赦なく描きだす。
 数年前に世間を賑わせ、ニュースにもなった「#教師のバトン」プロジェクトでは、教師という職業の魅力を広報したい文部科学省の思惑とは真逆に、窮状を訴える現職教師からの怨嗟の声がSNSを埋め尽くした。もはや、日本社会を支えてきた土台は急速に崩れつつあることは隠しようがない。金八先生やGTOのような教師像が過去のものとなった令和の学校で、軽やかに過ごす白兎先生から我々が学ぶことは多い。

外山 薫

とやま・かおる●作家

『白兎先生は働かない』

しろやぎ秋吾 著

5月26日発売・単行本

定価1,430円(税込)

購入する

TOPページへ戻る