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宇田川敦史『アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか』(集英社新書)を松原 ひとしさんが読む

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あなたに正義があるとしても、
他にも異なる正義がある

 いまやスマートフォンなしの生活は考えられなくなっている。LINEで知り合いと連絡を取り、必要な情報はグーグルで検索し、買い物はアマゾンなどのネットショッピングで済ませ、最近はわからないことは生成AIに質問している。スマートフォンのたくさんのアプリを日常的に使っているのである。それらのアプリ(のほとんど)はアルゴリズムというものにしたがって動いている。「ほとんど」と断ったのは、生成AIなど一部は厳密にはアルゴリズムではないものにしたがって動いているからである(本書ではそれをAIと定義している)。
 大学で情報系に進むと最初にアルゴリズムとは何かを習うのだが、直感的に理解するのがむずかしかった記憶がある。NHKのEテレの「アルゴリズムたいそう」(本書でも取り上げられている)を初めて見たときに、これだったら直感的に理解できると感心したことを思い出す。
 本書はそのアルゴリズムをAIと対比して説明し、スマートフォンのアプリで使われているさまざまなアルゴリズムについて具体的にわかりやすく説明している。ユーザーによって出てくるニュースが異なるのも、推薦される商品が異なるのも、すべてアルゴリズムによって計算された結果による。自分が知りたい情報が効率よく得られてとても便利なのであるが、素直に喜んでばかりはいられない。アルゴリズムによってユーザーが好む、心地よい偏向した情報だけが届けられて他の情報が遮断されている。ユーザーがある意見を言うとそれに似た意見だけが返ってきて仲間内だけで盛り上がっていくエコーチェンバー(閉じた空間で音が反響する現象にちなむ表現)という現象も起きている。SNSで自分が見聞きしている情報は非常に偏っているという認識を持つことがメディアリテラシーとしてとても重要である。あなたに正義があるとしても、他にも異なる正義がある。本書を読んで多くの人がそのことに気付いてほしいと願っている。

松原 仁

まつばら・ひとし●コンピューター科学研究者

『アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか』

宇田川敦史 著

発売中・集英社新書

定価1,100円(税込)

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