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高野真吾『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)
を二村知子さんが読む

[本を読む]

カジノの危険性を伝える「リアルニュース」
著者の執筆動機に、本屋の私も応えたい

 カジノ賛否両派を取材し関連資料に当たってきた著者が、これまで世に出ていない切り口と共に、その貴重な調査内容を成果として示している。例えば、マカオでは「カジノと女性」がセットだが、大阪IRの開業に向けて、カジノに来る男性に女性をあてがう商売がうまみがあると計算し、すでにリサーチしている人間の存在までも明らかにしていた。ギャンブル依存症だけではなく、それに付随するものにも危険性があることも本書で分かった。これら「リアルニュース」を伝えるのがこの書籍だ。
 以前、隆祥館書店で、松原文枝著『ハマのドン 横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録』(集英社新書)発刊イベントを開いたときのことだ。映画「ハマのドン」に登場されたNY在住のカジノ設計業者・村尾武洋さんにもオンラインでご出演いただいた。行政側が巨額の税金を投入するなんてあり得ない、と大阪のカジノ計画を危惧し、大阪がカジノ業者の餌食にされるのを見ていられないという様子で語られた。カジノが大阪にはいかに不要か、また、開いてしまったらもう取り返しがつかないということも示唆された。
 本書でも大阪IRで、莫大なカジノ収益が上がると見込まれていることが書かれているが、このお金の多くはカジノ客の負けが支える。博打で吸ったお金で財政を豊かにすることをどう考えるか? しかも建設予定地の夢洲ゆめしまでは爆発事故も起こっており、けが人こそ出なかったが、そもそも万博やIRを建設する場所として相応しくない。これらについても証拠を握るおおさか市民ネットワークの藤永のぶよさんに取材をされている。
 著者は、最後に執筆動機をこう書いている。「営利目的で上梓しません。そのため本書に関わる印税・原稿料は、取材でお世話になった各団体に寄付することにします」。実は本屋がお薦め本を語るのには躊躇がある。苦労して読み込んで選書しても、お客様はその情報をもとにあっと言う間にアマゾンで買われてしまうのだ。けれど、著者のこの心意気に私も応えたい。ぜひお買い求めを。できれば書店で。

二村知子

ふたむら・ともこ●隆祥館書店店主

『カジノ列島ニッポン』

高野真吾 著

発売中・集英社新書

定価1,100円(税込)

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