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保坂廣志『首里城と沖縄戦 最後の日本軍地下司令部』(集英社新書)
を三上智恵さんが読む

[本を読む]

第32軍地下司令部壕に関するあらゆる
資料を駆使した過去にない労作

 アメリカ公文書館に26年間通い続け、90万ページに及ぶ沖縄戦の資料に目を通してきた保坂氏が、膨大な資料を基に照射する第32軍司令部壕の姿は、かつてなく多角的・立体的に読む者へ迫ってくる。本書は、司令部壕に関するあらゆる資料を網羅した科学的なアプローチという点で過去にない大変な労作である。
 驚くのは、「沖縄人スパイ説」の震源地がこの第32軍司令部であったことを示す数々の資料だ。米軍も、日本軍が意図的にスパイ説を流布した理由は「日本軍が逃亡し、米軍に投降する事実を隠すため、民間人をスパイにでっち上げた」と分析までしている。
 さらに1945年5月末に司令部壕を抜け出し本土に戻った神直道じんなおみち参謀が「沖縄県人は支那人に劣る」「学徒(防召)は駄目なり。召集しても皆家に逃げ帰り……」などと走り書きしたメモや、八原博通やはらひろみち大佐が自身の逮捕について「沖縄人スパイのなせるわざ」と憤慨し県民を犬呼ばわりしていたという米軍の調書などを見ると、改めて怒りが湧く。
 この壕にいた沖縄戦の責任者らは、自らの作戦の失敗も、部下たちがさっさと機密漏洩していた事実もすべて沖縄県民になすりつけるような価値観の下で、地下深く、日にも当たらず青白い肌で、酒や慰安婦や処刑場という闇とともにうごめいていた。そんな眼をそむけたくなるような実像が浮かび上がってくるが、それこそが捨て石にされた軍隊の哀れさであり、軍人の本質である。その残酷な事実から私たちは、歯を食いしばってでも学ばなければならないのだ。
 この本は、15年戦争の加害がどのような構造の中で生まれ、機能していったのか、日本軍最後の現地司令部となった第32軍司令部壕という具体的な行為を行った空間で、リアルに考えるチャンスを後世の我々に提供しているということを教えてくれる。80年の沈黙を破って今、地下司令部壕を開放する意味について筆者は「第32軍司令部がいかなる戦争を仕掛けそれが内外にどのような影響を与えたのか検証するものでなければならない」と書くと同時に、県民を戦火にさらす無謀な計画が立案された場所に立ち、現在南西諸島で進められている軍事要塞化が過去の過ちをなぞるものでないかどうか、注意深く検証すべきだと警鐘を鳴らしている。

三上智恵

みかみ・ちえ●映画監督、ジャーナリスト

『首里城と沖縄戦 最後の日本軍地下司令部』

保坂廣志 著

発売中・集英社新書

定価 1,012円(税込)

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