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小さくて陰にいても正面から
こんな世界があったなんて……大相撲をテレビで何となく見ているだけでは全然気づかなかった。主人公の
篤が所属しているのは朝霧部屋という小さな相撲部屋。師匠は十分な実績もあげないまま若くしてまさかの形で部屋を継ぐことになり、弟子も少ないところからコツコツ積み上げてきた人で、力士たちの番付もお世辞にも高くはないけれど、みんな手堅く前進している。篤は両親との関係がギクシャクし、高校を中退して叔父の勧めで何となくこの世界に入ってきた。同じ部屋の力士の怪我やうっかり犯してしまった失敗、他部屋の呼出からの嫌がらせなど心折れそうになることもあるけれど、呼出の兄弟子や部屋の仲間たちが時に熱く、時に下から支えるように励ましてくれ、少しずつ仕事に前向きになっていく。
兄弟子の
ここで描かれるのは、本当に小さな、光の当たる表舞台ではない世界だ。でも決して「変化」をしなかった篤の師匠の相撲の取り方と同様、何事にも正面からぶつかっていこうとする人の姿には、どんなに不器用でも人の心を動かす力があると実感できる。
神田法子
かんだ・のりこ●ライター