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『「自由」の危機ー息苦しさの正体』藤原辰史/内田樹 ほか 著 を
荻上チキが読む
「多角的なまなざしで政治介入の不当性を訴える」

[本を読む]

多角的なまなざしで
政治介入の不当性を訴える

 本書は、日本学術会議の新会員任命拒否事件について、異なるディシプリン(専門)やメソッド(手法)を持つ書き手たちが言葉を紡いだ論考集だ。菅義偉よしひで政権が発足して間もなく発覚した任命拒否は、日本学術会議法が求める会員数を満たさない違法状態を生んだ。菅総理は「総合的・俯瞰的」に判断し、「問題提起」したのだと繰り返すが、理由を説明せず法に反することは「問題提起」にならないし、そもそも「問題提起」したいなら、赤旗のスクープという形で露呈するわけがない。しかし、場当たり的な釈明と、人々の忘却を期待する態度、および反知性的共感(反知性とは、知的権威に対する大衆的懐疑を指す政治学用語。単に「頭が悪い」という意味で使っている人がいるが誤用)をくすぐる振る舞いは、その後も継続されている。
 それに対し、学術会議の役割や、学問の自由の重要さについて、原則の整理、歴史の確認、意義への説得を重ねるのが本書だ。同じ事件について二十六人の書き手たちの解説を読むというのは、贅沢な体験でもある。この学問はこのようなアプローチで語るのか。この立場からはこの視点で語られるのかと、多角的なまなざしと知識を得ることができる。 科学史家の隠岐さや香氏がアカデミーの国際通念について整理をし、政治学者の杉田敦氏が公権力と学術共同体の緊張関係についてまとめる。憲法学者の石川健治氏が、記者の望月衣塑子いそこ氏相手に憲法的な整理を行い、物理学者の池内さとる氏が「軍事研究」と「学問の自由」との関係を論じる。作家、アーティスト、ジャーナリストなど、幅広い立場から、表現の役割が述べられるほか、黒川検事長定年延長事件、科研費バッシング、あいちトリエンナーレバッシングなど、類似の政治介入などについても読み応えのある証言などが並ぶ。
 書かれていない視点、同意できない言説があれば、そこから自分の立場も読めてくる。百人組手で知性を鍛え、不当性に抗う訓練になる一冊。

荻上チキ

おぎうえ・ちき●批評家、ラジオパーソナリティー

『「自由」の危機――息苦しさの正体』

藤原辰史/内田樹ほか 著

発売中・集英社新書

定価 1,166円(税込)

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