[刊行記念]
谷村志穂『りん語録』刊行記念
りんごを巡る旅で出会った味と香りと言葉!
本誌で連載され好評を呼んだ谷村志穂さんの『りん語録』がいよいよ刊行されます。前作『ききりんご紀行』執筆後も、生産量第1位の青森だけでなく、他県のりんご園にも足を運び、また、りんごスイーツの名店を訪ねて京都へも。さらには、文学作品中の「りんご」を追いかけ─本書刊行にあたり、2年超の連載より名場面をお届けします。
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ピンクレディー
目を奪うような光沢。栽培には、オーストラリアの団体に使用料を支払わねばならない。日本では長野を中心に生産。このりんごは1973年生まれで、歌手のピンク・レディーよりデビューが早い。
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ななみつき
1991 年に「ぐんま名月」として登録された品種に北海道・七飯町では、新しいブランドネームをつけて生産している。蜜がたっぷり入り、お月様のごとく黄色い、甘さも香りも際立つりんご。
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恋空
8月に収穫される
極早生 種のひとつ。果皮がとても薄く、剝いて切り分けるとまるで桃のよう。(※果肉が色付かない恋空もあります) -
はつ恋ぐりん
「好きなりんごを3 つ教えて」と聞かれて、谷村さんが必ず入れるのが「はつ恋ぐりん」。グリーンではなく、ぐりん。酸味も甘味も強く、香り豊か。
■『りん語録』エピソード
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1 無袋=サンは同じ意味
山形もりんごの収穫量が多く、朝日町の
和合平 には「無袋ふじ発祥の地」の看板が。袋がけせずに作るりんごに「サン」をつけ、「サンふじ」「サンつがる」と呼び始めて広めたのは長野だが、山形では今も「無袋」と呼ぶ。 -
2 フランスから表彰された タルト・タタン
タタン姉妹が、アップルパイを作ろうとりんごを炒めていたら焦げてしまい、失敗を補おうと、上にタルト生地をのせて焼き、ひっくり返してできたお菓子。フランスのタルト・タタン愛好家協会からの招待でフランスへ行った祖母の味を受け継いだ孫娘が作るタルト・タタンを味わいに、京都「ラ・ヴァチュール」へ。
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3 ついには、りんごを栽培する土まで取材
りんごをおいしく育てる土を見るため、京都から奈良へ。フルボ酸という天然の腐葉土から抽出された液体を土に噴霧することで、野菜や果物に虫がつかなくなり、収穫時の味も濃くなるという。フルボ酸を取り入れ、完全無農薬のりんご栽培に成功した作り手も。
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4 宮沢賢治が好んだのは何りんご?
『銀河鉄道の夜』で描写されたりんごは何りんごだったのか、品種を知りたくて、岩手・花巻の宮沢賢治記念館へ。「賢治は当時まだ普及していないゴールデンデリシャスにいち早く出会い、心を動かされたのではないか」と学芸員の牛崎さん。では島崎藤村の有名な詩「初恋」に出てくるりんごは一体何りんご?──文学の中のりんごにまつわるエピソード、つづきは『りん語録』でどうぞ!
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5 りんご園のネズミを退治するフクロウ
りんご園に営巣するフクロウの雛に会うため青森へ。巣立ってしまうと出会える確率はぐんと下がるとのことだったが、フワフワで愛らしい雛と無事ご対面。農業では動物を目の敵にすることが多いが、フクロウとりんご栽培は共生できている。
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6 りんご王国のオーダーメイドジュース
りんごを持ち込むと、ひと箱1000円の加工料で無添加ストレートジュースにしてもらえる、
弘前 の津軽りんご加工センター。入口には加工を待つりんごの箱がびっしり。
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7 青森の大会で優勝した 群馬のりんご
群馬生まれの「ぐんま名月」は甘みの強い黄色いりんご。群馬・沼田の松井りんご園へ。跡継ぎの息子さんが育てたサンふじは弘前で開催された「りんご王者決定戦2018」で優勝したという、実力の農園。
谷村志穂
たにむら・しほ
1962年札幌市生まれ。北海道大学農学部にて動物生態学を専攻する。雑誌編集者などを経て90年に上梓した『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーに。91年、処女小説となる『アクアリウムの鯨』を発表。2003年、『海猫』で島清恋愛文学賞を受賞。著書に『余命』『黒髪』『尋ね人』『いそぶえ』『ボルケイノ・ホテル』『大沼ワルツ』『移植医たち』『セバット・ソング』『チャイとミーミー』『空しか、見えない』『ききりんご紀行』など多数。17年、青森りんご勲章受章。