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森まゆみ 『温泉博士が教える最高の温泉 本物の源泉かけ流し厳選300』小林裕彦 著

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利害関係なく書かれた稀有な温泉案内

 いや、参りました。これほど率直で、利害関係なく書かれた温泉本は見たことがない。うなずくことばかりだ。岡山の弁護士であられる小林センセイ、皆身銭を切って入った湯ばかり。だから極上湯にあたって喜ぶ姿も、ひどい目にあった悔しさも納得できる。
「循環湯や塩素殺菌の湯は温泉ではない」
 その通り。「どこの誰が浸かったかわからない温泉を最大7日間もぐるぐる回して、その不衛生を塩素で消毒している。塩素を入れれば臭いもするし肌にも悪い」。主張はあまりにも真っ当だ。「そもそも循環風呂に美人の湯も美肌の湯もあり得ません」「循環湯の浴室に源泉の分析書を掲げても意味がない」ともある。
 ところが温泉業界有力者の政治力か、わが国ではそれがまかり通っている。なかんずく掛け流し温泉まで塩素消毒を義務付けている県は宮城、栃木、長野、神奈川、奈良、鳥取、長崎、鹿児島など「掛け流し温泉」の宝庫。「掛け流し温泉でレジオネラ症が発症したことは一度もない」というのに。
 私も高校生で那須の北温泉に行ってから、50年、温泉大好き。仕事先では自費で延泊、選ぶ宿はセンセイと同じ。鉄筋ビルでない、ひなびた、コスパの良い、掛け流しの宿。おお、大好きな虎杖浜こじようはま民宿500マイル、鉛温泉藤三ふじさん旅館、鳴子なるこ温泉ゆさや、下部しもべ温泉源泉舘、高峰温泉、網代あじろ温泉平鶴……から、わが一押し、壁湯かべゆ温泉福元屋まで、湯のようにドバドバ出てくる。「激しく同意」したのは「洗い場に石けんがあること」。あのべとべとした液体のシャンプーやボディソープはなかなか洗い落とせないし、川を汚すのではないか、と気になるのです。
 本物の秘湯を求めて、式根島からトカラ列島、登山も辞せず、時には熊に出会い、時には崖から落ちかける。その探求心に脱帽。「五大質素な温泉」とか「五大不思議温泉」とか可愛すぎやしませんか。温泉を紹介する純真なコメントの数々にも、好感が増すばかり。
 早速、携えて、オススメの湯めぐりに行こう!

森まゆみ

もり・まゆみ●作家、編集者

『温泉博士が教える最高の温泉 本物の源泉かけ流し厳選300』

小林裕彦 著

発売中・単行本

本体1,600円+税

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