[本を読む]
だれの心にも寄り添う、
四人(と猫一匹)の物語
人間の怖い部分も描かれている作品なのに、このやさしい気持ちになる読後感はなんだろう。
血の繫がっていない、おなじ年の兄弟である
私がこの作品に惹かれるのは、立場の弱い人やマイノリティの心理描写の巧みさだ。セクハラを受ける女性や、シングルマザーの心の揺れ動き、彼氏を信じたいけれど信じきれない彼女の感情、やり直せない過去への後悔。ゴミ屋敷と化した家にひきこもっていた三井が、「まやま」で寝ることになったときの〈快適で素晴らしいのに、自分を覆っていた繭のようなゴミがなくなったことに、心細さのようなものも感じた。〉という文にさえ、ヤケに共感できてしまう不思議。人間の素敵な「白い」部分と、悪意のある「黒い」部分が、まるで風景のようにサラリと描かれる。子どもの頃、だれからも
だれの心にも記録されているであろう、感触だけが記憶されている感情の輪郭を刺激してくる描写。見逃さない。放っておかない。物語は、人と人との衝突を経て、相互理解に向かっていく。だから、やさしい気持ちになるのだ。
もちろん「血の繫がっていない兄弟」のブロマンス感も大満足。「まやま」に集う四人のドラマ、可能ならばこの先も眺めていきたい。
サンキュータツオ
サンキュータツオ●漫才師、一橋大学非常勤講師