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サンキュータツオ 『捜し物屋まやま』木原音瀬このはらなりせ

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だれの心にも寄り添う、
四人(と猫一匹)の物語

  人間の怖い部分も描かれている作品なのに、このやさしい気持ちになる読後感はなんだろう。
 血の繫がっていない、おなじ年の兄弟である間山和樹まやまかずき白雄しお(兄のほうが身長が低いという萌え要素アリ)。この兄弟は父親から受け継いだ貸しビルの四階で、お客さんが捜してほしいものを見つける「捜し物屋まやま」を営んでいる。ひきこもりだった三井みつい 、ぽっちゃり弁護士の徳広とくひろ。そして和樹、白雄。奇妙な縁で自然と「まやま」につどうことになったこの四人(と猫一匹)の物語を軸に、「人間」を見つめる作品となっている。
 私がこの作品に惹かれるのは、立場の弱い人やマイノリティの心理描写の巧みさだ。セクハラを受ける女性や、シングルマザーの心の揺れ動き、彼氏を信じたいけれど信じきれない彼女の感情、やり直せない過去への後悔。ゴミ屋敷と化した家にひきこもっていた三井が、「まやま」で寝ることになったときの〈快適で素晴らしいのに、自分を覆っていた繭のようなゴミがなくなったことに、心細さのようなものも感じた。〉という文にさえ、ヤケに共感できてしまう不思議。人間の素敵な「白い」部分と、悪意のある「黒い」部分が、まるで風景のようにサラリと描かれる。子どもの頃、だれからもうとまれていた小汚いなりの同級生の女の子が、ある日突然いなくなったことに対し、和樹はこう思う。〈自分一人が気にしている。校庭の隅にまだいるんじゃないかと思ってしまう。どうしてみんな忘れるんだろう、忘れられるんだろう。〉
 だれの心にも記録されているであろう、感触だけが記憶されている感情の輪郭を刺激してくる描写。見逃さない。放っておかない。物語は、人と人との衝突を経て、相互理解に向かっていく。だから、やさしい気持ちになるのだ。
 もちろん「血の繫がっていない兄弟」のブロマンス感も大満足。「まやま」に集う四人のドラマ、可能ならばこの先も眺めていきたい。

サンキュータツオ

サンキュータツオ●漫才師、一橋大学非常勤講師

『捜し物屋まやま』

木原音瀬 著

発売中・集英社文庫

本体660円+税

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