[本を読む]
平山夢明が書けば
泥団子だってダイヤモンドになる
とんでもなく尊いものと果てしなくくだらないものが列を作ってジェンカを踊っている。
それが平山夢明の最新短篇集『あむんぜん』の印象である。
表題作はアムンゼン靴店の一人息子・あむんぜんの物語で、彼は小さい頃に交通事故に遭ったため頭蓋骨を完全に閉じることができず、長髪でそれを隠している。坊主頭の同級生からやっかまれていじめの対象になる。だが、それがきっかけで彼の脳味噌に秘められていた能力が発動するのだ。いかにも中学生らしい愚かな行為がきっかけとなって起きた事態は、悪意の塊としか言えない人物が関与したことによって最悪の方向に進んでいく。このへんの無慈悲な展開は徹底した現実主義者である平山らしいものだが、その中にごく細いものながら情の影が射し、窮鼠(きゆうそ)が猫を嚙み殺す意趣返しの結末が訪れる。どぶ泥の中の宝石だ。
「千々石(ちぢわ)ミゲルと殺し屋バイブ」は、借金のため無惨な運命を辿りそうになった女が思わぬ救済に出会う物語であり、続く「あんにゅい野郎のおぬるい壁」も弊履(へいり)のように使い捨てられそうになった者同士がどん底の中で手を握り合う瞬間が描かれる。巻頭の「GangBang The Chimpanzee」は動物園で雄のチンパンジーに強姦された男が舐める辛酸を描くもので実に最低なのだが、性的暴行を受けた者が理不尽な二次被害に遭う日本の現状を諷刺したものとして読むこともでき、考えさせられるのである。まったくもって尊い。
そうやって読者を油断させておいて、平山夢明は横っ面を殴りにくる。巻末の二篇がとにかくグロテスクなのだ。あの昔話のパロディにもなっている「報恩捜査官夕鶴」は刑事たちが「仁義なき戦い」のヤクザめいた広島弁を駆使することからして馬鹿馬鹿しく、啞然とさせられる。「ヲタポリス」はアイドルのコンサート会場で披露される、ヲタ芸と呼ばれる奇矯なダンスを言語化したとしか思えない小説だ。とにかく無意味で最高だ。
レッツダンス。
杉江松恋
すぎえ・まつこい 書評家