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工藤 律子『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)を岩本菜々さんが読む

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今の働き方、暮らし方に限界を感じる
──そんな多くの人々への一筋の光!

 私は大学院に在籍しながら、同年代である20~30代の若者の労働・生活相談を受けてきた。現場に立っていると、若い世代の「働くこと」への絶望を実感する。社会貢献を志しSDGsを標榜する会社に入ったのに、パワハラと過重労働でいつの間にか心身を病んでいく。「自由な働き方」を希求しフリーランスになっても、不安定な立場のため取引先への従属をいられる。袋小路で「もっと意味ある生き方を」ともがく若い世代に、一筋の光を与えてくれるのが本書である。
 工藤律子さんはこれまで、スペインにおける、経済成長よりも人や環境を中心に据えた経済を目指す「社会的連帯経済」の取り組みについて紹介されてきた。一方この本の舞台は日本だ。日本では2020年に「労働者協同組合法」が成立し(2022年施行)、1970年代から続く労働者協同組合の働き方に再び注目が集まっている。本書で紹介される多様な事例からは、貧困、障がい者や高齢者の孤立、環境破壊など、経済停滞の中でますます深刻さを増す社会課題に立ち向かい、自らの手で民主的な社会を再建していく手段として、労働者協同組合の働き方が選ばれていることがわかる。また、市民による事業を持続的に支える「市民バンク(NPOバンク)」など、新たな金融システムの発展も興味深い。遠いヨーロッパの国々だけでなく、私たちのすぐ身近なところで、自分も社会も大切にできるオルタナティブな経済を作り出す取り組みがこんなにも広がっていたなんて! と目を開かれる思いがした。
 元出稼ぎ移民たちが介護労働を通じて社会の一員となっていく様子、障がいを持つ人と持たない人が共同生活を送りながら創作活動や有機農業を行い、安全な野菜を地域に届けるなどの実践例を読むと、社会を強くしてくれるのは、大企業の誘致でも、海外富裕層を呼び込むインバウンドでもなく、社会的連帯経済の実践なのだと実感する。今の働き方・暮らし方に限界を感じている多くの人に、まず本書を手に取ってみてほしい。「こんなことが可能なのか」という驚きとともに、より公正で自由な社会につながる想像力が広がるはずだ。

岩本菜々

いわもと・なな● NPO法人POSSE理事

『働くことの小さな革命
ルポ 日本の「社会的連帯経済」』

工藤律子 著

発売中・集英社新書

定価1,100円(税込)

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