[本を読む]
ぞっとして興奮する、
〝あの言葉〟たちの裏側
目次を見てぞっとして興奮した。「活動」、「卒業」、「自分らしさ」、「『気づき』をもらう」、「生きづらさ」、「個人的な意見」、「ウケる」、「言葉狩り」……。時代をたゆたう、意識的であるかどうか人を試す言葉が鋭く並ぶ。肯定も否定もせず不気味なうごめきだけは感じながら、つい使ってしまう言葉たちだ。
言葉の変化のスピードがいよいよ増す今、「表層部分で生まれたり死んだりする言葉を採集して眺めてみたのが、本書となります」(「はじめに」より)とある。
その、眺めた先に見える景色の鮮やかさに目が覚めた。
就活、妊活、終活など、抵抗する間もなく広がったように感じる「活動」の使い方には、昔はさほど労せず皆がしていたことが、今やそうではなくなった時代の背景があると見る。
「ウケる」は、その登場前夜、人々は面白いことを見聞きしてもただ笑っていたと。笑うことが以前よりもっと能動的な行為になったことから広まったのではと考える。
「気づき」や「感動」を「与え」たり「もらう」のは、贈答行為の意識の高さゆえであり、感謝の機会の拡大につながっている……。
読むほどに、気になる言葉の裏に、この世界のたった今の雰囲気が絡みついているのが分かる。
著者の酒井順子さんは、名人の手つきで巧みに、対抗するように、その空気を言葉で
言葉が新しく生まれることも、古びていくことも、私はいつもすこし怖い。新しい言葉には置いていかれる恐怖を、古い言葉には今すぐ手放さなければならない強迫を勝手に感じる。本書の、臆さず対峙し、独特の納得感を持って言葉の裏とその先を見通す態度自体が心強い。言葉にびびらなくてもいいと思わせてくれる。
古賀及子
こが・ちかこ● エッセイスト