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増島拓哉『みちぜる』を
杉江松恋さんが読む

[本を読む]

怒りの炎は誰かの心を傷つける。
きっとあなたの心を。

 純情は、常に裏切られる。
 増島拓哉『路、爆ぜる』は激しい暴力の小説であり、切ない青春小説でもある。
 題名が示す通り路上の物語だ。大阪市の繁華街が主な舞台で、他に行き場がなくそこに漂ってくる者たちが描かれる。主要な登場人物たちはみな他人に言えない屈託と怒りを抱えている。作中ではたびたび他人を破壊する暴力が描かれるが、それが物事を解決する手段となることはない。互いを傷つけ、怒りの炎をさらに燃え上がらせる結果にしかならないのだ。暴力は自分自身を破壊するということを本作は描いている。しかし発露せずにはいられない。暗い情念を噴き出さなければ生きていけないからだ。かくして誰もが自壊していく。
 父親と不和であるため家にいられない高校生の椎名和彦は道頓堀の江崎グリコ看板下、通称グリ下に流れ着いた。そこで出会った顔役と名乗る集団が自分のような若者をまもってくれる正義の味方だと感じた椎名は、彼らに憧れる。未成年に酒を勧めたり、違法薬物をたしなんだりする一面はあるが、大人の決めた腐った決まりをぶち壊してくれる人々なのだ。やがて椎名は積極的に彼らの手伝いをするようになる。
 この顔役と愚狼會ぐろうかいとの抗争を軸として物語は進んでいく。愚狼會は地下格闘技興行を主催する集団だが、若い女性を風俗産業に売り飛ばすことを裏の生業としている。いわゆる半グレ集団の実態が克明に描かれているのが読みどころの一つで、二〇二四年の大阪が見事に浮かび上がってくる。路上からしか見えない街の風景が。
 闘いは次第に激化し、やがて誰にも制御することができなくなっていく。只中に巻き込まれた椎名はその愚かさを目の当たりにすることになるのだ。彼がこれこそが正義だと信じた道はいたずらに人を傷つけるものでしかなかった。世の中で正義を標榜するものの欺瞞ぎまん、掲げられた理想の後ろにある黒い思惑を本作は描き出すだろう。裏切られ、傷つけられた者の目にしか見えないものがある。

杉江松恋

すぎえ・まつこい●書評家、ライター

『路、爆ぜる』

増島拓哉 著

1月24日発売・単行本

定価 2,420円(税込)

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