[特集]
第5回 高校生のための小説甲子園 優秀賞作品発表!
恋愛、ファンタジー、冒険、ミステリー、時代もの……ジャンル不問のフレッシュなオリジナル短編小説を募集する高校生限定の文学賞「高校生のための小説甲子園」。応募者が通う学校の所在地により全国を7つのブロックに分けて予選を実施。最終回となる今年は選考の結果、予選通過原稿8作品(各ブロック1作、本年は近畿ブロックから2作)が出揃いました。2024年10月13日に実施された「村山由佳先生による小説ワークショップ&本選」に参加した予選通過者の8名は、その場で出されたテーマ「恥」をもとに原稿用紙3枚程度の小説を執筆、予選の作品と本選の作品をあわせて第5回の優秀賞および特別賞2作が選ばれました。
イラストレーション=結布
優秀賞
東京ブロック代表
中川真緒
(東洋大学京北中学高等学校2年)
応募作「未来で再会を」
課題作「恥晒し」
ブロック代表 8名
北海道・東北ブロック
涌澤 雪乃 (仙台第二高等学校2年)
応募作「灰色が、その感情に変わるまで」
課題作「あの日の瞳」
東京ブロック
中川真緒(東洋大学京北中学高等学校2年)
応募作「未来で再会を」
課題作「恥晒し」
関東(東京以外)ブロック
山田 澪 (クラーク記念国際高等学校1年)
応募作「「知らない」」
課題作「欠片」
東海・北信越ブロック
渡邉 匠(静岡県立富士高校3年)
応募作「子供たちへ」
課題作「人類の恥」
近畿ブロック
鯨 朱夏 (滋賀県立虎姫高校3年)
応募作「煙草」
課題作「叫ばせんな」
近畿ブロック[特別賞]
多良 葵(滋賀県立守山高等学校3年)
応募作「ひといろかめれおん」
課題作「母なる父、父なる母、またはその父」
中国・四国ブロック[特別賞]
麓 天海 (愛光高等学校3年)
応募作「アトリエのパフェ」
課題作「桃色モモちゃん」
九州・沖縄ブロック
笹田梨央(福岡県立東筑高校2年)
応募作「パヒュメールの孤高の香り」
課題作「灰色の命」
[総評]
選考委員 村山由佳
「高校生のための小説甲子園」も、今回で第五回を迎えました。
今年もこちらの想像を軽々と飛び越えてくるような優れた作品が多く寄せられて、予備選考に携わった編集者たちが苦渋の選択を
野球と違って文学賞には、勝敗を分けるような明確な採点基準がありません。ホームランもなければ盗塁もない。その意味ではむしろ、体操競技やフィギュアスケートにおける採点と似ているかもしれません。技術の確かさや表現の豊かさ、全体の構成やまとまり、跳躍の見事さ、着地の安定感……それらを総合して選抜してゆくことになります。
すべてにおいて秀でている作品というのはまず存在しません。職業小説家の作品であってもなお、〈表現力は優れているのに構成がいまひとつ〉とか、〈アイディアは素晴らしいけれど着地で失敗している〉とか、必ず長所と短所がある。全部がうまくはいかないものです。
ですから、今回ブロック代表に選ばれた皆さんも、自分の作品に足りていないところを自覚しても
私はこれまで多くの新人賞応募作や文学賞の候補作に接してきましたが、つくづく思うのは、短所は決して悪いだけのものではないということです。ただ無くせばいいわけじゃない。なぜなら、そのひと独自の持ち味は、長所よりも短所にこそ表れるからです。
優れている部分は意識的に高めることができるけれども、苦手なところを克服するのは難しいですよね? 簡単にはコントロールできないということ――それはつまり、短所の中にこそ、あなたの強烈な個性が潜んでいることの証です。いま欠けている部分こそは、その書き手にとっていちばん大切な独自性が埋まっている鉱脈だし、言い換えれば無限の伸びしろでもあるのです。
さて、本選当日について。
何しろ「甲子園」ですから、戦わなくてはなりません。代表の皆さん全員が、一つのテーマをもとに原稿用紙二~三枚の小説をその場で書きあげる、それも制限時間内に、という勝負です。
今回の創作テーマは、「恥」。冒頭の短い講演の中でもお伝えしましたが、生きてゆく中で何をいちばん恥ずかしいと思うかは人それぞれで、だからこそ「恥」の中には小説の種が隠れています。とても優れた種ですが、書くのは難しいし、しんどい。そのしんどさに、皆さんなら向き合うことができると思いました。
結果、次々にこちらへ届けられる作品には、それぞれの戸惑いが色濃く表れていました。時間を存分にかけることの許される応募作と比べると、完成度という意味ではまだまだでしたが、でも、それでいいのです。たとえ広げた風呂敷をきっちり畳めていなくても、自分はこれを書くのだ! これを書けるのは自分だけだ! という想いの強さが伝わる作品は、やっぱり尊いし、強い。
応募作と課題作の両方を考え合わせて、今回は優秀賞を一名と特別賞を二名、選びました。
みごと優秀賞に輝いた中川真緒さんは、たくらみを持って物語を書けるひとです。応募作「未来で再会を」、課題作「恥晒し」ともに、短い中にもひねりがあり、驚きが用意され、さらにはそれぞれ陽と陰というコントラストまで意識されている。総合点で、この評価に至りました。自身で立てた当初の狙いを作品の中で確実に形にできる、その鮮やかな手腕に拍手を送ります。中川さん、おめでとうございます。
特別賞の一人、
もう一人の特別賞、
お二人とも、おめでとうございます。
どうか、書くことをやめないでほしい。それが今回挑戦してくださった皆さん一人ひとりに伝えたいことです。
〈書ける〉というのは、じつはそんなに単純な能力ではないのですから。これだけ〈読ませる〉作品を生み出す皆さんは、すでに選ばれたひとたちであり、それとひきかえにきっと何かしらの使命を託されているのですから。
この「小説甲子園」と、そこで生まれたご縁をきっかけに、皆さんがさらに深々と創作の沼にはまりこんでくださることを、強くつよく願っています。
村山由佳
むらやま・ゆか●作家。
東京都生まれ。立教大学文学部卒。会社勤務などを経て作家デビュー。1993年『天使の卵│エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞を受賞。21年『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞を受賞。