[本を読む]
流行りを作り出した出版人の生涯
吉川永青が、江戸の地本問屋・
吉原の妓楼「尾張屋」の養子であり、貸本屋を営む重三郎。吉原の火事の混乱の中で、人の心の本質と、それを動かす要諦を摑む。そんな重三郎が目指すのは、人々を動かすほどの流行を作り出し、世の中を楽しくすることだった。再建された吉原で
本書は、蔦屋重三郎の生涯を描いた、オーソドックスな歴史小説だ。しかし、ユニークな点がふたつある。ひとつは地本問屋として成功するまでの過程が、克明に綴られていること。「尾張屋」の上客として絵師の北尾重政と知り合いだったり、その北尾から人気戯作者の
さらに、重三郎の女房のお甲をクローズアップしているのも、ユニークな点だ。貸本屋の上客の遊女で、年季が明けると、重三郎の押し掛け女房になったお甲。なにかと喧嘩しながら、一方で重三郎にインスピレーションを与える。彼女の気持ちのいいキャラクターも、大きな読みどころになっているのだ。
細谷正充
ほそや・まさみつ●文芸評論家