[本を読む]
解釈のしがいがある60句
2019年に日本テレビ系で放送されたドラマ『あなたの番です』をきっかけに盛り上がった、「考察」に夢中な方々にオススメしたいのが俳句。五七五と言葉数が限られているがゆえに、俳句くらい考察しがいのある文芸ジャンルはないからだ。たとえば、小説家・川上弘美の第二句集『王将の前で待つてて』の表題句〈王将の前で待つててななかまど〉。
主人公の性別、呼びかけている誰かとの関係性の解釈によって、この句の世界は様相を
この句集には2010年から23年までに詠んだ句に加え、1994年から始まる作者解題つきの「自選一年一句」が収録されている。〈引込線ゆけば花野に終はりけり〉のような正統派の写生句もあるけれど、わたしが発見して好きになったのはちょっと似てるという「変奏句(造語です)」だ。
〈炎昼の舌太く怒れる男〉と〈炎昼の女怒りて発光す〉。太陽の照り返しでアスファルトも溶けそうなくらい暑い中で怒っている男と女。どっちの様子も凄まじいけど、やっぱり勝者は逆光ゆえか身体の輪郭が発光しちゃう女のほうかなあ。
〈棒暗記せし詫び文句着ぶくれて〉と〈着ぶくれて近所の鳩を蹴ちらせる〉。本当は謝りたくない前者と、何が気に食わないのか鳩に当たり散らす後者。着ぶくれている状態が機嫌の悪さを示す愉快な二句で好き。
その他、漢字多用句、生き物句、理科系句、怖い句、艶っぽい句、忌日句、東日本大震災やコロナ禍を想起させる世情句など、さまざまな世界や感情を見せてくれる60句を収録。最後に、考察マニアの皆さんのために難解句の中からひとつ紹介します。
〈アマリリスしあはせになつても負けた〉
お手並み拝見!
豊﨑由美
とよざき・ゆみ●書評家