[受賞記念エッセイ]
カフェにて
樋口六華
金欠気味なのだが、たまにカフェに行く。実はこのエッセイもカフェで書いている。
店で一番安いレモンティーを頼んで、できるだけ遅く吸いながら念じる。締め切り前のいつもの儀式。書くきっかけ、書くきっかけ。
ストローをガジガジ嚙んでいるうちに浮いてきたのは、気泡と、小学生の頃の思い出だった。
卒業間近に生徒一人一人がお互いにメッセージを書く時間があって、もらったその紙の片隅に担任からの少し大きめのコメントがあった。
「〇〇は文章を書く才能があるから、小説家になったらいいんじゃないでしょうか!」
その時からだろうか。
今の時点では将来に対する漠然とした不安はあるし、“普通に”生活する能力もだいぶ欠落してるし、自分の悪い部分がちらつくというよりかは、良い部分が見当たらないことに焦る毎日だ。それなのに、なぜか書いていくことだけは終わらない気がする。しばらく経っても、だらっとしながら、ふと浮いてきた何かを「ことば」で掬すくおうとしてる気がする。
また「ことば」が集まってきたら、作品にしようと思う。運が良ければ三、せめて二作ほど、いいものを書けたらと。
吸い終えたグラスの内側を、カラっとストローでかき混ぜる。レモンがへたり込むように氷に埋もれている。くたびれてきたので、ここでペンを置こうか。
最後に一応。ちょっぴし期待しといて。
撮影=中野義樹
樋口六華
ひぐち・りっか●2007年茨城県生まれ
「泡の子」
樋口六華 著
単行本・2025年2月5日発売予定