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佐々木 敦『メイド・イン・ジャパン』
[第4回]XG vs. Idol

[連載]

第4回 XG vs. Idol

XGの挑戦

 XG(エックスジー)は、2022年3月にデビューした日本人7名から成るガールズグループです。XGとは「Xtraordinary Girls」の略称とのことですが、「未知」を指す記号の「X」も含意されているものと思われます(彼女たちには「X-GENE(=未知の遺伝子)」という曲もあります)。日本のレコード会社エイベックスが資本を提供する、韓国拠点の新興音楽プロダクションXGALXが行ったプロジェクト「X-Galaxy」から生まれたグループで、オーディションで選抜された候補生たちが2017年から5年間に及ぶ訓練を経てデビューを果たしました。XGALXの代表でXGの統括プロデューサーのサイモンは韓国人の父と日本人の母の間にアメリカで生まれ、韓国で育ち、ボーイズアイドルグループDMTNのメンバーとして活動、グループ解散後は作詞作曲も手掛ける音楽プロデューサーとして複数のアーティストに楽曲を提供してきました。プロデューサーとしての名義はJAKOPS(JApan KOrea Produce by Simonの略)。彼はXGをゼロから育て上げ、現在までのところ全ての曲をプロデュースしています。
 XGはデビュー曲「Tippy Toes」はそれほど話題になりませんでしたが、3ヶ月後にリリースされた2曲目の「MASCARA」で一気に知名度を上げ、この曲に合わせて韓国の人気音楽番組に初出演、そしてK-POPファンの間で物議を醸すことになりました。なぜならXGは全員が日本人であるばかりでなく、歌詞が英語のみであったからです。音楽的な方向性やヴィジュアル面を含むイメージの打ち出し、マーケティングやプロモーションのスタイルは明らかにK-POP(的)であり、韓国でデビューしていながら、XGは韓国人メンバーが一人もおらず、韓国語では歌わないグループなのです(日本語でも歌っていないのですが)。
 当然ながらこのやり方は賛否両論を巻き起こしました。この点についてサイモンは、XGはJ-POPともK-POPとも違う「X-POP」を志向するグループであり、オーディションには日本国外からも参加者があったが、最終的なメンバーが日本人だけになったのは結果に過ぎないと(一部の批判に答えるかたちで)表明しています。とはいえ、その後もXGのこのような「ねじれ」はたびたび問題視されることになりました。しかしそうした──ある意味では無理もない──揶揄や反感を跳ね返すように、XGは卓越したスキルと魅力(メンバーの歌やラップやダンスは現在のK-POPシーンでもトップクラスと言えます)、楽曲の個性と完成度によって人気と評価を高めつつ現在に至っています。韓国での活動ぶりが「逆輸入」されるかたちで日本における存在感も次第に増しており、最近は日本の国内メディアにも登場することが多いです。
 XGのようにK-POPを「韓国」と切り離して一種の方法論として捉える考え方は当のK-POP側からも出てきています。以前の回でも述べたように外国人メンバーを入れることでそれぞれの国のファンを取り込んだり韓国国外での活動がしやすくなるということもありますが、現在はほぼ全面的に外国人にも門戸が開かれているグローバル・オーディションとはまた別に、韓国以外の国でオーディションを行って、その国に住むメンバーでグループを組み、活動もそれぞれの国を拠点とするというローカライズ(現地化)と呼ばれる戦略が増えています。有名なのはJ.Y. Parkことパク・ジニョン率いる大手音楽事務所JYPエンターテインメント所属のNiziU(ニジュー)でしょう。JYPと日本のソニーミュージックが合同で主催したオーディション「Nizi Project」から誕生したグループで、メンバーはアメリカ出身のニナ以外は全員日本人です。結成は2020年ですがコロナ禍だったこともありしばらくは日本のみで活動(日本語曲)、2023年の秋にようやく韓国でもデビューを果たし、シングル「HEARTRIS」(韓国語曲)で韓国人メンバーがいないグループとして韓国音楽番組史上初めての1位を獲得しました。JYPはローカライズに熱心で、2023年にはアメリカのリパブリック・レコードと組んでグローバル・オーディション「A2K」を開催、アメリカ人5名とカナダ人1名から成るVCHA(ヴィーチャ)をデビューさせています(曲は英語)。
 同様に、BTSやSEVENTEEN、fromis_9(プロミスナイン)、LE SSERAFIM(ルセラフィム)、NewJeans(ニュージーンズ)、ILLIT(アイリット)などを擁するHYBEも2023年に米ゲフィン・レコーズと合同でオーディション番組「The Debut:Dream Academy」を行い、アメリカ人3名、フィリピン人1名、スイス人1名、韓国人1名のKATSEYE(キャッツアイ)を送り出しています(英語曲)。今後こういうケースは更に増えるでしょう。また最近、日本のメディアでは「日本人のみのK-POPグループ」としてUNICODEという新人が話題になりました。こちらはAbemaTVで放映されたオンライン・オーディション番組からデビューしたグループで、韓国の中堅事務所XXエンターテインメントの所属。日本と韓国で活動しており、歌詞も曲によって2言語を使い分けています。逆ローカライズ(?)とでもいうべきこのパターンにはすでにNiziUという成功モデルがいるわけですが、日本の吉本興業と韓国CJ ENMの合弁会社LAPONEエンタテインメントが運営母体のオーディション番組企画「PRODUCE 101 JAPAN」から誕生したJO1、INI、ME:I、IS:SUE(イッシュ)も、日本でデビューした後、韓国の音楽番組にも出演、その際には韓国語ヴァージョンを披露しています(これはK-POPグループの日本語ヴァージョンと同じですが、後でも触れるように最近は日本語のままで歌うことも少しずつ増えてきています)。

「文化技術」としてのKーPOP

 J.Y. Parkは近年「K-POP 3.0」というキーワードを唱えています。これは「韓国人のみ=Ver.1」「外国人を入れる=Ver.2」「外国人のみ=Ver.3」というK-POPの3段階を指すもので、現在は「Ver.3」だということです。この考えは数々の人気グループを世に送り出したSMエンターテインメントの創始者イ・スマンの「韓流発展3段階」を踏まえたもので、簡単に言えば「輸出」→「合弁」→「現地化」ということになるでしょうか。イ・スマンは人材や作品だけでなく、韓国の「文化技術(Culture Technology)」こそが世界商品になりえると考えました。実際、音楽だけでなく、映画やドラマはもちろん、最近では小説というジャンルでも韓国文化のグローバル化は著しい。イ・スマンやJ.Y. ParkらにとってK-POPとは「文化技術」なのです。
 ここで思い出すのは、自国で成功したフォーマットを海外に輸出してローカライズするという方法には日本にも先例があるということです。そう、AKBです。秋元康が総合プロデューサーを務める、日本では2010年前後に国民的な人気のピークを迎えたアイドルグループAKB48は、まず日本国内にSKE48、NMB48、HKT48など姉妹グループが次々と作られたのち、海外での展開が始まり、2024年9月現在、JKT48(ジャカルタ、インドネシア)、BNK48(バンコク、タイ)、CGM48(チェンマイ、タイ)、MNL48(マニラ、フィリピン)、AKB48 Team SH(上海、中国)、AKB48 Team TP(台北、台湾)、KLP48(クアラルンプール、マレーシア)が活動中、過去にはインドやベトナムにも現地化グループが存在していました。48グループの手法は徹底していて、グループによって多少の違いがありますが、研修生システムや専用劇場での常時公演、握手会や総選挙など、いわゆる「AKB商法」の多くが海外グループでも踏襲されており、楽曲も数少ない例外を除きAKBの過去の有名曲を現地語の歌詞に替えた一種のカヴァー曲になっています。ある意味でこれも「文化技術」と言っていいかもしれませんが、かなり金儲けに特化した「技術」であることは否めません。しかし現在のトップグループであるIVE(アイヴ)のアン・ユジンとチャン・ウォニョン、LE SSERAFIMのキム・チェウォンとサクラ(宮脇咲良)がかつて在籍していたIZ*ONE(アイズワン)は、秋元康が監修し、CJ ENM傘下の韓国のケーブルテレビ局Mnetが放送したオーディション番組「PRODUCE48」から生まれたグループなので(宮脇咲良はAKB48、HKT48の元メンバー)、秋元康はK-POPの現在の隆盛に間接的に貢献しているとも言えそうです。
 さて、ここで話をXGに戻しましょう。JAKOPSとXGALXの戦略はここまで述べてきた「文化技術としてのK-POP」をさまざまに援用、活用しつつも、ある一点において異なっています。サイモンはXGを「J-POPでもK-POPでもないX-POP」と語っていますが、では彼の言う「Ⅹ」には何が代入されるのでしょうか。それはやはりグローバル、いや、端的に「アメリカ」ということになるのではないかと思います。XGというグループの最大の特徴は、メンバー全員が日本人であることではありません。K-POPのスタイルで、英語を母語としないメンバーが、なのに英語で歌うという点にあります。XGがしばしば批判されるのは、繰り返しになりますが、K-POPの手法を用いつつ韓国語では歌わないことです。メンバーは韓国で長期間のレッスンを受けており、音楽番組やインタビューでは韓国語を流暢に話しています(むしろ英語の方が不得手で、ネイティヴ並みに話せるのはMAYAだけのようです)。私は以前から、一部の根強い批判をかわすためにも、一曲くらいは韓国語で曲を出したり、韓国語ヴァージョンをやってもいいのではないかと思っているのですが、頑ななまでに(?)そうしようとはしない。しかし韓国で活動はしているわけで、快く思わない人がいても無理からぬことだと思えてしまいます。
 しかし、これは間違いなく確信的に選び取ったスタンスなのだとも思います。XGは日本語曲も出していない。サイモンには日本人の血が流れており(動画で見る限り彼は日本語も話しています)、楽曲センスに往年のエイベックス的なフレイヴァー(m-floとか)を感じることはありますが、彼女たちは「日本」という条件をほぼまったく利用していないのです(隠してもいないですが)。もちろん「韓国」も利用しようがないわけで、いうなれば出自はJ、手法はK、しかし視線の先には明らかにUSAがある。誤解をおそれずに言えば、サイモンとXGにとって「文化技術としてのK-POP」はアメリカに向かうための一種のスプリングボードに過ぎない。もちろんサイモンにも韓国文化やK-POPへのリスペクトがないはずはありません。しかし彼と彼女たちが、韓国や日本でのプレゼンスよりも、アメリカの音楽シーンでの評価とアメリカの音楽市場での成功を重要視していることは間違いないと思われます。
 では、それはうまくいっているのか? 今のところは圧倒的な成功とまでは言えないというのが正直なところだと思います。XGは自分たちの楽曲以外にもラップやR&B、ポップスの有名曲のカヴァー動画を精力的に公式YouTubeチャンネルにアップしており、それらがSNS上で世界的にバズったり、グローバルなチャートアクションも急速に上がってきているものの(特にSpotifyなどのサブスクリプションサービスでは好調です)、文句なしのブレイクには至っていない。アメリカにおける「ブレイク」のハードルが非常に高いということもありますし、何をもって「ブレイク」と呼べるのか、ということもあるのですが。私は以前からXGの挑戦を「実験」と表現していますが、まだ実験過程であり、結果を云々するのは時期尚早なのかもしれません。VCHAやKATSEYEのように英語圏のメンバーが主体のグループなら英語で歌うのはごく自然なことであるわけですが、XGの場合はそれとも違う。かといって日本語や韓国語を経由して2段階(あるいは3段階)で英語曲を出すのではなく、一足飛びにアメリカを目指そうとしている。この挑戦にして実験は非常に興味深い。しかし困難であることも確かです。
 ナショナル・アイデンティティは両義的であり、かせにもなれば武器にもできる。少なくとも表面的にはXGはこの問題に逡巡も拘泥もせず、最初からグローバル=アメリカを真っ直ぐに見据えているように思えます(彼女たちは韓国の音楽番組で1位を獲ったことが一度もありませんが、そもそもそれを目標にしていないことは明白です)。しかしふと考えてみると、XGの韓国版というか、全員韓国人のK-POPだが最初から英語のみで(英語ヴァージョンではなく)歌うグループはなぜ存在していないのでしょうか? JYPやHYBEやSMは、なぜそれをしないのか? それはつまり、グローバルを目指すにはローカルを経由する方が得策かつ近道だということなのではないでしょうか?
 この連載の第1回で私は「ニッポン人になるか? ガイジンになるか?」という二択を提示しました。日本(人)らしさを敢えて強調、仮装してみせるか、それとも「日本」を可能な限り消し去ろうとするか。XGは後者のように見えますが、実際にはどうしたって「日本」を消去することなどできはしない。私はXGの音楽が好きですし(特に「SHOOTING STAR」と「NEW DANCE」は名曲だと思います)、メンバーのことも応援していますが、その歩み方はいささか性急かつ潔癖に過ぎるような気がすることもあります。ある意味でピュアというか、もう少し搦め手を使ってもいいのではないか……もちろん、今のやり方でいつの日かビッグ・サクセスを手にすることを願っていますが。

YOASOBIの快進撃

「Head In The Clouds Festival」は、アメリカ各地、および世界の複数国で開催されている音楽フェスティバルです。このフェスを主催している88risingは、日系アメリカ人のショーン・ミヤシロによって2015年に設立された、アメリカを拠点にアジアのカルチャーを世界に発信するためのメディア・カンパニーで、アジアの音楽(家)をアメリカ国内にプロモーションすることも盛んに行っています。2023年にK-POPの人気グループ(G)I‐DLE(アイドゥル)が88risingと組んで英語アルバム『HEAT』をリリースした際はニュースになりました。しかしなんと言っても日本では、4人組ガールズグループ、新しい学校のリーダーズが2020年から88risingの所属となり、ATARASHII GAKKO! として海外で大活躍していることをご存じの方が多いと思います。
 したがって「Head In The Clouds」の出演者は基本的にアジア系もしくはアジア人です。ATARASHII GAKKO! はもはや常連と言っていいですし、XGも2023年にニューヨークとロサンジェルスで行われた「Head In The Clouds」に出演し好評を博しました。しかしもっとも大きな話題になったのは、YOASOBIの出演です。YOASOBIは2022年にインドネシアとフィリピンで開催された際にも出演していましたが、2023年の「Head In The Clouds Los Angeles」でアメリカでの初ライヴを披露しました。この時の観客の熱狂ぶりや同じく出演していたATARASHII GAKKO! とのコラボはSNSに動画が多数出回っており、日本のメディアでも大々的に報道されました。
 あらためて記しておくと、YOASOBIは2019年から活動を開始したデュオ・ユニットで、メンバーはコンポーザーのAyaseとヴォーカルのikuraです。Ayaseはボーカロイドのプロデューサー、いわゆるボカロPとして、ikuraこと幾田りらはソロのシンガーソングライター、またアコースティックセッションユニットぷらそにかのメンバーとしてそれぞれ活動していましたが、YOASOBIとしてのデビュー曲「夜に駆ける」がいきなり大ヒットし、人気アーティストの仲間入りをしました。以来、日本国内ではすでに地位を確立していましたが、YOASOBIの海外進出のブースターになったのは、2023年4月に放映が開始されたTVアニメ『【推しの子】』のオープニングテーマ「アイドル」の世界的なバイラルヒットです。『【推しの子】』は、赤坂アカの原作、横槍メンゴの作画による人気マンガですが、アニメ版も始まるやいなや大評判となり、物語の世界観を凝縮したかのような「アイドル(Idol)」も(YOASOBIはデビュー以来「小説」を音楽化するというコンセプトを持っているのですが、テーマ曲の制作に当たって原作者の赤坂アカが短編小説を書き下ろし、それをもとにAyaseが作詞作曲とプロデュースを行いました)、楽曲の配信と同時に公開されたMVとともに、瞬く間に驚異的な再生数を叩き出していきました。1ヶ月ほど遅れて英語ヴァージョンも公開されましたが、日本以外の国でも日本語版のほうが再生されています。MVは公開1ヶ月で再生数1億回を突破(2024年9月現在、5億2千万再生)、楽曲は国内外の数々のチャートで1位や新記録を連発し、本連載のこれまでの記述に沿うならば、「ビルボード・グローバル200」(アメリカ国内のチャートである「ホット100」とは別に2020年から発表されているグローバル・チャート)で日本のアーティストとしては史上最高の7位を、「グローバル200」からアメリカの集計分を除いた「ビルボード・グローバル・エクスクルーディングUS」では日本語楽曲として初の1位を獲得しました。「Head In The Clouds Los Angeles」への出演は、この盛り上がりの中で行われたわけです。そこでYOASOBIは「アイドル」を日本語で歌っています(他の曲はもともと日本語だけなのですが)。動画を観ると観客はikuraと一緒に日本語を口ずさんでいて、時代は本当に変わったなと実感させられます。
 日本のメディアでも度々伝えられていますが、その後もYOASOBIの快進撃は続き、「Head In The Clouds Los Angeles」から1ヶ月後の2023年9月には韓国Mnetの人気音楽番組M COUNTDOWNに出演して「アイドル」を日本語版で披露、同番組で日本のアーティストが日本語曲を歌うのは史上初のことでした。韓国では2022年に日本のシンガーソングライターimaseの「NIGHT DANCER」がK-POPアーティストなどにTikTokで取り上げられて大ヒットして以後、若者層を中心にJ-POPへの関心が高まっていましたが(この傾向は現在も続いています)、YOASOBIの「アイドル」はその決定打になったと言えます。2024年4月には現在世界で最も動員力があるとされているアメリカ、カリフォルニアの「コーチェラ・バレー・ミュージック&アーツ・フェスティバル」の88rising枠に、ATARASHII GAKKO!、Awich、Number_iとともに出演、この頃、アリーヤやトム・ヨークなどが所属する(かつては坂本龍一も所属していました)アメリカの大手エージェンシーCCA(Creative Artists Agency)とエージェント契約を交わし、8月にシカゴで開催された長い歴史を持つ大規模音楽フェスティバル「ロラパルーザ」にも出演(K-POPアイドルのIVEの出演も話題になりました)、海外ツアーも行うなど、活動のベースを日本国外にシフトしつつあるように見えます。
 YOASOBIはどこまで行くのか、これからの動きに注目したいところですが、やはり次は「アイドル」のようなタイアップ(世界的なバズのきっかけが『【推しの子】』─世界各国の配信サイトで超人気コンテンツになっています─という日本のアニメ=ジャパニメーションの力であったことは疑いを入れません)抜きにして何ができるか、ということではないかと思います。もちろんタイアップが悪いわけではないのですが、個人的にはYOASOBIが所属するソニーミュージックはアニメのタイアップに頼り過ぎだとも思います。現在の日本の音楽市場ではそれくらいしか必勝法がないのも事実なのですが。
 もうひとつの注目点は、YOASOBIが今後、オリジナルの英語曲を出すかどうか、です。私は出すのではないかと思っていますが、楽曲のオリジナリティやクオリティとはまったく別次元において、それがどんな結果を導き出すか、「アイドル」くらい売れるのかどうか、とても気になります。あるいは次も日本語曲でグローバル・ヒットになるのかもしれないですが。ここにも「ニッポン人になるか? ガイジンになるか?」という問いがあります。
 XGとYOASOBIのスタンスと進み行きは─88risingという共通項があるとはいえ(そしてこのことは重要です)─ほとんど対照的に思えます。しかし現時点で両者が「ニッポンの音楽の海外進出」の2種類のモデルケースであることはまちがいありません。では今回、名前が何度も出てきたATARASHII GAKKO!=新しい学校のリーダーズはどうなのでしょうか? それが次回のテーマです。(つづく)

佐々木 敦

ささき・あつし●思考家/批評家/文筆家。
1964年愛知県生まれ。音楽レーベルHEADZ主宰。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。芸術文化のさまざまな分野で活動。著書に『「教授」と呼ばれた男──坂本龍一とその時代』『ニッポンの思想 増補新版』『増補・決定版 ニッポンの音楽』『映画よさようなら』『それを小説と呼ぶ』『この映画を視ているのは誰か?』『新しい小説のために』『未知との遭遇【完全版】』『ニッポンの文学』『ゴダール原論』、小説『半睡』ほか多数。

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