[本を読む]
骨太の物語にかそけき音を聞く
『カッコウ、この巣においで』はとても印象的なタイトルだ、と思った。
岩渕
少年の母は各地を転々とし、何人もの男たちと暮らした。少年は無戸籍で学校にも通ったことがなく「当たり屋」まで命じられていたのだ。少年は高義にだけは心を開く。高義は「噓」をついてまで少年を引き取った。
「
そんなとき、突然、高義の息子、
やがて、物語は大きな変化を見せる。前半のエピソードが効いてきて、胸が痛くなるような展開に読む手が止まらない。正の感情も負の感情も溢れる描写は、綺麗事だけではないところがリアルだ。これ以上は書けないが、祈るような気持ちで読み進めた。
物語の終盤にとても印象的な一文がある。
――窯から出された陶器はピン、ピン、と、ガラスや金属を爪で弾くような軽やかでかそけき音を鳴らしていた。
これが駆の好きな音だ。辛い描写もあるが、読後感は温かで
読み終えて、改めてタイトルの意味を思った。『カッコウ、この巣においで』は印象的なだけではなく、とても秀逸なタイトルだ。どうか皆様も「この巣においで」とカッコウを呼び、軽やかでかそけき音を聞いてほしい。
遠田潤子
とおだ・じゅんこ● 作家