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インタビュー/本文を読む

集英社版『学習まんが 世界の歴史』全18巻
山﨑圭一(ムンディ先生) インタビュー
世界史は知れば知るほど好きになる“恋人”

[インタビュー]

世界史は知れば知るほど
好きになる“恋人”

二十二年ぶりにリニューアルする集英社版『学習まんが 世界の歴史』全18巻の総合アドバイザーを務めるのは、シリーズ累計一〇〇万部突破の『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』(SBクリエイティブ刊)の著者で、チャンネル登録者数一四万人を超える大人気教育YouTuberの“ムンディ先生”こと、山𥔎圭一さんです。
各巻冒頭には「ムンディ先生のまるわかり解説」が置かれ、実際に高校で世界史を教えていた山𥔎さんならではのわかりやすさでその巻の重要なポイントが解説されています。総合アドバイザーの立場から本シリーズの魅力と歴史を学ぶことのおもしろさについて語っていただきました。

聞き手・構成=増子信一/撮影=山口真由子

だれにでも分かる言葉で説明することを意識した

―― アドバイザーとして、一番配慮されたことは何でしょうか。

 言葉の選び方ですね。この言葉は理解できない、この言い回しなら理解できるだろうといったところをチェックしました。そのときに基準にしたのは、私が実際に教えてきた学校の生徒たちです。「うちの生徒だったらこの言葉は分かる、この言葉では分からない」ということをすごく意識しました。
 極端に成績がいいわけでも、極端に悪いわけでもない、そういうごく平均的な生徒たちが全員理解できる言葉で授業をすることを私自身ずっと目指してきました。ということは、そういう言葉で書かれていれば、実はほとんどの大人も読んで分かるということなんですね。
 もっといえば、中学生も読めるだろうし、小学生でも読めます。もし分からないことがあったら親に訊けばいいですし、親はこれを読んで子どもに説明できる。そういう、だれでもが分かる言葉にしようと考えました。

―― 現役の生徒だけでなく、学校で世界史を習ったけれど、むずかしくてちゃんと学ばなかったという大人が読んでも分かるということですね。

 ええ。もし授業の世界史が好きじゃなかったという人がいたら、このシリーズで世界史をもう一回学び直してほしいですね。世界史というのはカバーする範囲がとても広いんです。いま起きている政治的・経済的な出来事はもちろんですが、文学、音楽、絵画、映画といったいろいろな芸術・文化の教養の基礎になっているわけです。
 たとえば『レ・ミゼラブル』のミュージカルを観るにしても、芝居だけを観るのではなく、このミュージカルの舞台となっているフランス革命後のフランスの歴史を知っていれば百倍もおもしろく観ることができる。
 つまり、世界史を学べば、文学でも音楽でも映画でも、歴史に関連したすべてのコンテンツにアクセスすることができるわけですね。そういうふうに、それぞれ背景の知識を得ることで、よりおもしろくその世界を味わうことができるんです。

―― 本シリーズの紹介動画でも問いを発することの大切さを語っておられますが、そうやって知ることで、そこに問いも生まれてくるわけですね。

 歴史を学ぶということは、ある時間軸の中で、物事の因果関係をつかむということです。ですから、歴史を学ぶというのは、ナポレオンが何年にどこどこへ攻め入ったとか、ルーズベルトが何々をやったのは何年だとかの年号を覚えることではなくて、因果関係の中に自らを置いて物事を理解することなんです。
 特にいまは情報が氾濫しています。たとえば、ある事件が起こったとき、テレビではああいっている、新聞ではこういっている。あるいは、S‌N‌SなどであるインフルエンサーはAといい、ほかのインフルエンサーはBといっている。でも、メディアがこういっているから、インフルエンサーがこういっているから、というように情報に踊らされるのではなくて、その事件の原因は何なのかという問いを自分で立てて、これが原因ならば結果はこうなるだろうという見通しをもって物事を考えられるようにする。そういう因果関係の積み重ねこそが歴史ですから、歴史を学ぶ意義はとても大きいと思います。

まんがが理解と問いにつながる

―― 山𥔎さんご自身も小学生の頃にまんがで歴史を学ばれたそうですが、まんがで歴史を学ぶ楽しみというのは?

 一つには、まんがは文章よりも情報量が多いということがあります。たとえばその人物がどういう顔をして、どういう服装をしているのか。また、中国だったら皇帝の座る玉座がどういうものか、ヨーロッパだったらベルサイユ宮殿の中がどうなっているのかとか、そうした服装や建築物などが歴史の理解につながることはとても大きいんです。
 実際の授業でも、文字による説明だけでは生徒たちもその場面の想起ができない。ビジュアルがあってはじめてその場面を想起することができるんです。ただ、教科書に載っている肖像画は行動しないし、しゃべるわけでもない。だけれども、まんがではその人物がしゃべったり、思い悩んだり、そして勝負をかけたりする。そういうところを通して歴史の理解が深まるのだと思います。
 たとえば第一次大戦後、敗戦国であるドイツには巨額の賠償金が科せられました。「巨額の賠償金を科せられた」だけではただ文章の表現ですが、パリ講和会議の会場でこの賠償金を突きつけられたドイツの代表が、眉間に皺を寄せて冷や汗を垂らしながら悔しがる。その表情が一つあることで情報量が何倍にも増える。直感的にその事象がこの国にとって良いことなのか、悪いことなのか、喜ばしいことなのか、悔しいことなのかということを見て取ることで、より理解を深めることができると思います。
 ですから、登場人物をただかっこよく見せるだけではなくて、悩んだり、自問自答したり、そういう要素をたくさん入れてほしいとアドバイスさせてもらいました。それが生徒自身の問いにもつながるんです。

―― 各項目の主人公には実在の人物だけでなく架空の人物も登場して、ストーリーとして楽しめるような工夫もなされています。

 近現代になると架空の人物が出ることが多くなりますが、とくに近現代は、国を動かす政治家だけではなく、同時代の普通の人たちの考え方や、かれらがその時代をどう生きていたかを知ることも大事ですから、その辺はシナリオライターの方たちが非常にうまくストーリーに仕立てているなと感心しています。
 特に十六巻(冷戦と東西対立)、十七巻(多極化する世界)では、多様な地域の多様な事象を描くことになるので、架空の人物を登場させて、その人の視点からさまざまな地域とさまざまな世界の動きを関連づけて紹介しています。それに十七巻は、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカの戦後を一巻に凝縮して描いたというのが画期的だと思います。すごく読み応えがあるし、おもしろい。
 しかも十七巻、十八巻(進むグローバル化)は、現在の日本にも関連が深いので、十七巻、十八巻だけ読んでも、最近の世界の政治や経済の動向に興味づけができると思います。

日本史は親友、世界史は……

―― 最後に山𥔎さんにとって世界史とは?

 私は福岡県の太宰府というところで生まれ育って、小さい頃からうちの町は歴史が古いんだと聞かされてきました。校歌を歌えば太宰府、遠足に行くとなれば太宰府、何でもかんでも太宰府で、近くには重要文化財とか国宝とかがたくさんある。そういう中で生まれ育ってきましたから、日本史にはずっと接してきて、いってみれば親友みたいなものなんです。何でも知っていて、今さら好きとか嫌いとかいう関係ではないんですね。
 世界史には、ほとんどの人と一緒で、高校のときに初めて出会いました。すでに物心がついていますから、学べば学ぶほど現代の世の中がすごくよく分かってくる。世界史を知ることで、いま起きているパレスティナ問題も分かるし、ロシアのウクライナ侵攻も分かるし、経済の動きも分かる。知れば知るほど好きになるので、世界史は恋人という感じですね。
 ただ、このことを生徒たちにいうと、意地悪な生徒が、「地理は何なんですか」と訊いてくる。私は地理も教えていますからね。そこで、最初は「ちょっと人にはいえない関係かも」とかいったりもするのですが、真面目にいえば、日本史も世界史も地理条件の中で育まれていて、地理はそれらのベースになるわけですから「家族みたいなもの」ですね。
 今回の『学習まんが 世界の歴史』で、みなさんもすばらしい恋人に出会ってほしいですね。

山﨑圭一

やまさき・けいいち(むんでぃせんせい)●元福岡県立高校教諭・YouTube「Historia Mundi」主宰。1975年生まれ。
早稲田大学教育学部卒業。2012年から2021年にかけて公立高校に勤務するかたわら、『世界史20話プロジェクト』などの授業動画をYouTubeで配信。歴史の流れなどわかりやすさが評判となり、幅広い層から支持を得ている。著書に『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』シリーズ等がある。

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