[本を読む]
僕と藤井は天敵同士だ
本作の著者である藤井誠二と僕は天敵同士だ。TBSのラジオ番組に出演したときには本番中なのに互いにエキサイトしてついに殴り合いになってしまったことがある。
なぜ仲が悪いのか。死刑制度についての考えが真逆だからだ。僕は死刑制度を廃止すべきと思っている。そしてずっと犯罪被害者や被害者遺族の側で取材を続けてきた藤井は死刑容認派だ。つまり水と油。仲良くなれるはずがない。
その藤井が犯罪加害者をテーマに書いた。読むに値するのか。どうせ
真摯なのだ。
そう書くと、藤井がいつもは
被害者や遺族の側に立ってきた藤井は水原の真摯さに強く共鳴しながらも、時には混乱し、時には共に悩む。反省と
「藤井さん、笑うことは罪でしょうか」
これに対する藤井の答えは書かれていない。だから読みながら想像する。考える。自分も二人の
「したことを思えば自分がこうして生きていることに疑問を覚えますが、生かされていることを理解し、少しでもまともになりたい、善くありたいと思うのです」
読み終えて思う。久しぶりに藤井と飲みたい。酔ってまた殴り合いになるかもしれないけれど、今はしみじみとそう思う。
森達也
もり・たつや●映画監督、作家