[本を読む]
教養に「?」をつける解説書
教養、という言葉に反発したくなってしまう人が存在するのは、教養という語彙が無意識に振りかざす「正しさ」のような気配を茶化したくなるからではないだろうか。と、私なんかは思ってしまう。実際、教養書と呼ばれる本を現代的な価値観で読むと「うーむ、この本の内容をすべて正しいと思っていいのだろうか」と苦笑してしまうこともある。しかし、本書はそんなふうに「教養」という言葉に対して懐疑的な人にもぜひ読んでほしい、新しい「教養」の解説書である。なぜなら本書のもっとも大きな特徴は、教養書と呼ばれる本に対して、常に作者が「本当か?」と疑問符をつけつつ、その疑問を含めて解説してくれているところにあるからだ。
阿部次郎、倉田百三、和辻哲郎、西田幾多郎、
教養とは、名著や古典に対しても「本当か?」と挑む姿勢を忘れずにいられる、その筋力を指すのかもしれない。本書を読むとそう思う。教養とは鍛錬する力そのものである。そう理解させてくれる、現代では稀有な教養入門書となっている。
三宅香帆
みやけ・かほ●文芸評論家