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アレキサンダー・ベネット『限界突破の哲学 なぜ日本武道は世界で愛されるのか?』(集英社新書)
を山本直輝さんが読む
まだまだ、これから——
日本武道から学ぶ百折不撓ひゃくせつふとうの心

[本を読む]

まだまだ、これから——
日本武道から学ぶ百折不撓ひゃくせつふとうの心

 最近ではディズニープラスで配信中のドラマ『SHOGUN 将軍』が世界各国で高い評価を得るなど、日本文化に対する関心は再び盛り上がりを見せているようだ。私が働いているトルコでも日本文化への関心は高く、子供を合気道や空手の教室に通わせる親も多い。また日本のマンガやアニメが好きなトルコ人の若者たちは、『バガボンド』や『るろうに剣心』などで描かれるかっこいい戦闘シーンを見て日本剣術に興味を持つこともあるそうだ。そしてこのような日本文化好きのトルコ人の友人たちはそろってこう言う。「日本の武道には小手先の競争ではない、深い精神性とそれに裏付けされた技術があるように見える」。
 本書は30年以上に亘り剣道を始め様々な武道を追求している著者が、稽古にまつわる多様な体験を紹介しながら日本武道の技術の深み、そしてそれを支える精神性を解説している。その情景が浮かぶような筆致は、あたかも自分がその修練の中にいるかのように読者に感じさせる。
 著者は常に基礎に立ち返り、己の技術を洗練させていく終わりなき「質的変容」のプロセスを日本武道の一つの核心として挙げている。茶道にも「稽古とは一より習い十を知り十よりかえるもとのその一」という言葉があるように、これは日本の「道」文化に広く共通する特徴であろう。カタログを眺めるように技術を表面的になぞり己を飾り付けるのではなく、何度もくじけ、そして立ち上がる経験を重ねることで、武道家は百折不撓の心やレジリエンス(弾力、復元力)を練り上げていくのである。それは時に過酷な道のりであるが、決して孤独ではない。なぜなら「師弟同行どうぎょう」、すなわち同じ道を共に歩む先生がいるからである。
「究極の一本」を打ちたい。その求道心をもって稽古に打ち込む限り、何があろうと人生が終わることは決してない。民族も言語も宗教も超えて世界に広がりつつある、日本武道の「限界突破」の豊かさを本書は教えてくれる。

山本直輝

やまもと・なおき●トルコ国立マルマラ大学助教

『限界突破の哲学
なぜ日本武道は世界で愛されるのか?』

アレキサンダー・ベネット 著

発売中・集英社新書

定価1,067円(税込)

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