[今月のエッセイ]
私とRADIO
まずは
さて、長くお見苦しい言い訳はこれぐらいにして、私がラジオの物語を書くに至った経緯をお話しさせてください。本作で初タッグを組んだ集英社の編集女史にリアルでお会いしたのは忘れもしない……えーっと(と言いながら今ものすごい勢いで過去のスケジュール帳をめくっている)、そうそう二〇二三年五月です。その日は軽い顔合わせ、くらいの気持ちで丸腰で臨んだのですが、彼女が開いた集英社文庫の「よまにゃノート」には書いて欲しいテーマのリストがズラリ。油断していた私は二〇〇〇年生まれの彼女がピックアップした題材を聞きながら、世代間のギャップを痛感していました。うーん、どれも書き切れる感じがしない……。中でも、「ラジオもの、どうですか?」と熱く推されたのですが、(ラジオ? 学生時代にちょっとだけ聴いていた期間はあったけど、最近は聴いてない)と、心の中で密かに却下。が、編集女史は、radiko(ラジコ)という、いつでもどこでもラジオを聴くことのできるアプリがあり、最近は若いラジオリスナーも増えているのだ、と前のめり。「そうなの?」と聞き返しながらも、なんだか気乗りがしなかったのでした。
「ラジオ、ぜんぜん聴きません?」
「はい、ぜんぜん聴きません。私、根っからのテレビっ子なんで」
ただ、学生時代、ラジオ番組に俳句だか川柳だかを送りつけ、ノベルティをもらった記憶がある……。私にもラジオに耳を澄ませ、ハマっていた時期があったような気もする。ラジオかぁ……。でも、自信ないなあ。しかし、編集女史はこのテーマがイチオシだったのか、「無理ですかぁ……」と、落胆の表情。いや、誰も無理だとは言ってない。こちとら無理だと言われると反論したくなる、安い性格。売られた喧嘩(提示されたテーマ)は絶対に買う。まあ、お酒も飲んでいましたしね。帰りのバスの中ではもう書く気満々でストーリーを練っていました。
けど、そもそもラジオ局ってどんな感じなの? 業界に
本の発売予定日が近づき、気が焦るなか、京都在住のお友達作家・望月麻衣さんからあるお誘いを受けていたのを思い出しました。それは京都の地元密着FM放送局「RADIO MIX KYOTO」さんの「Afternoon Library ~望月麻衣と本のはなし~」へのゲスト出演依頼でした。ただ、私の出演予定は7月。うーん。ゲラの締切には間に合わない。悶々としていると、望月さんから「6月のゲストが町田そのこさんなので、良かったら収録後、京都で一緒に飲みませんか?」というタイムリーなお誘いが。「わーい。飲む、飲む~!」いや、そうじゃなくて。「収録してるところ、見学してもいい?」という唐突なお願いにもかかわらず、ご快諾いただき、放送局の中を取材させてもらいました。放送前には実際に機材を見せていただき、ブースの中にも入らせていただきました。大きな放送局だとブースや隣接するサブルーム(副調整室)も広く、そこにはディレクター、AD、音声、WEB担当など、多くのスタッフが立ち働いている、という説明も受けました。ただ、見学させていただいた先は、地元密着型の小さなラジオ局。ナビゲーターさんひとりがブースの中でトークを回しながら、ADや音声さんの仕事も同時に行うという荒業……じゃなくて神業を見せていただきました。パーソナリティの望月さんも、まだ放送二回目とは思えないほどこなれた感じで、ゲストの町田さんの魅力をうまく引き出していました。半分以上がしゅわしゅわした酒にまつわる話だったような気もしましたが。
そんなこんなで、帰りの京阪特急プレミアムカーのシートでPCを開き、妄想でしかなかった物語にラジオ局のリアルな空気を吹き込むことができたのでした。めでたしめでたし。
保坂祐希
ほさか・ゆうき●作家。
大阪在住。大手自動車会社グループ勤務等を経て、2018年『リコール』でデビュー。主な著書に『大変、申し訳ありませんでした』『「死ね! クソババア!」と言った息子が55歳になって帰ってきました』『偽鰻』『死ねばいい! 呪った女と暮らします』等がある。