[本を読む]
個人ではなく関係の力にフォーカス。
依存しあう関係の中で組織は動くのだ。
働くとは「他者と働く」ことである。
「他者と働く」とはどういうことなのか? どうしたら組織はうまくいくのか? 著者は正面から問いかける。こうしてプラトンの対話篇あるいは落語のようにリズミカルな劇仕立てで、本書は進んでいく。
どうやったら有能な人材を選抜できるのか? この問いそのものに著者はNO ! と答える。「能力」のある人材がいれば組織がうまく回るわけではない、そもそも数値化され、個人化された能力なるものは、政策誘導された虚構にすぎない。
著者は企業コンサルタントでありながら(!)能力と選抜を否定する。本書は働く人の不安につけ込んで個人のスキルアップを
議論はきわめてロジカルだ。
自分の「能力」に自信があるとしても、単に下駄を履かせてもらっているだけだ。親の経済力、教育環境、仲間の協力、家事をしてくれる家族。これらはすべて「下駄」だ。それをわきまえずに周囲をスキルアップに追い立てても誰も幸せにはなれない。個人の能力に見えるものは、恵まれた環境の帰結にすぎない。
能力の個人化や競争は実は人を画一化し、顔のない集団で管理することにつながる。日本は長くそのような社会づくりを行ってきたが、著者は大きな発想の転換を迫る。
組織とは、たまたま出会った人たちがある目的に向かって働くことだ。性格も違えば障害を持つ人も病気の人もいる(著者自身の病の経験も語られる)。組織にはさまざまな役割が必要だ。営業で契約をとる人材だけでは回らない。地道に事務をこなし、顧客のアフターケアをする人材も要る。
依存しあう関係のなかで組織は動くのであり、お互いの凸凹した得意不得意を持ち寄りながらなんとか工夫するしかない。その苦労をみんなで肯定しあうことのなかにこそチームの力がある、と著者は語る。個人ではなく関係の力にフォーカスするのだ。
村上靖彦
むらかみ・やすひこ●大阪大学大学院教授