[本を読む]
魔女のお通りだよ、道を開けな
たった100年前、この国では結婚すれば女は無能力者とされ、自分の財産を管理することも許されなかった。現在においてもSNS上で男性芸能人がファンからの出産を怖がるメッセージに対し、「旦那様に無痛(分娩)おねだりするか」と返すような国だ。このような現状を生きていると、まだまだ私たち女は男性と同等な人間として認められていないのだなあと途方もない絶望にのまれ、時折全てを諦めてしまいたくなる。それでも、『ウェイワードの魔女たち』を読んで削られ続けた闘志がふつふつと再燃するのを感じた。私たちは無能力者なんかじゃない。しいて言うなら“魔女”です。
2019年のロンドン、恋人からの支配的な暴力に疲れ切ったケイトは、大伯母から受け継いだ山奥にあるウェイワードのコテージに逃げ込んだ。やがて近所で己の一族についての不思議な噂を耳にしたケイトは、その謎を探るべく大伯母や一族の過去について調べていくうちに、思いがけない事実を知ることになる。
5世紀にわたり、世代の異なる3人の女性の人生と受け継がれていく力を描いた本作。彼女たちを取り巻く豊かな自然描写の瑞々しさにうっとりする一方で、各々を襲う女であるがゆえの不条理は決して過去のものではないからこそ胸に突き刺さる。何度、私に物語の中に入る力さえあれば彼女たちを絶対ひとりになんかしないのに! と唇を嚙みしめたことか。魅惑的なマジックリアリズムと骨太な歴史小説、そしてフェミニズムが掛け合わさって倍増した魅力にページをめくる手が止まらなくなった。
彼女たちは支配しようとする男たちに傷つけられ踏みつけられようと、自分らしく生きていくために立ち上がり抗い続ける。私たちは強いんだ、とその生き様で語り掛けてくるように。自分の後に続く者たちへの思いと、時を越えた連帯は読者たる私の心をも鼓舞した。
先人たちが道を切り拓き繫いできたこのバトン、落としてなるものか、そう勇気が湧いてきた。私はひとりじゃないから負けないし、未来は絶対に明るい。
宇垣美里
うがき・みさと●フリーアナウンサー、俳優