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宮竹貴久『特殊害虫から日本を救え』(集英社新書)
を河合 薫さんが読む

[本を読む]

害虫根絶に懸けた
名もなき戦士たちの物語

「大変だ、大阪でセアカゴケグモ発見!」1995年11月、ニュース番組のお天気キャスターだった私は速攻で現場に飛んだ。目撃情報があった墓石の隙間の温度は18度。「お墓って冷え冷えしてるって思ってたのに意外と温かくて安心した」などと吞気な感想を言いプロデューサーに怒られた。あの頃の私は外来生物の脅威を知らなかった。ましてや私たちの食卓の当たり前の裏に、日本に侵入した害虫との熾烈な戦いがあったことも。
 本書はページをめくるごとに現場の匂いがこれでもか! と押し寄せ、五感を震わす一冊だ。それは先人たちの腹の底からの真面目さと根性であり、汗と涙であり、農家の生活を絶対に守ってみせる! という青臭いほどの覚悟であり、人と虫の共生への道程でもある。
 100年以上前に沖縄に上陸したミカンコミバエとウリミバエを、遂には世界ではじめてアリモドキゾウムシを、オスを罠にかけて消し、放射線で不妊化した虫を空から撒き、大好物のエサを根こそぎ燃やし“根絶”した名もなき戦士たち。彼らの合言葉は「失敗してもいい」。日本の害虫根絶事業の祖・伊藤嘉昭よしあきの「失敗の理由を明かせ。全てのデータを論文で世界に発信しろ」という研究者魂が、先輩から後輩へ受け継がれてきたと著者の宮竹氏は説く。
 しかし「人」の顔を忘れた国の政治はいとも簡単に戦士を減らし、すぐに使える研究だけせよ! と圧をかける。これでは害虫の根絶の前に、こちらが根絶させられる。害虫への仕打ちには正義があるが、国の近視眼的な振舞いにいったいどんな義があるというのか。
 幼少期のダンゴムシ遊びが生物への興味の始まりだったと言う宮竹氏と対談した際、見せてくれた外来種のオカダンゴムシは妙に黒光りしていて、いかにも悪者っぽかった。在来種のコシビロダンゴムシの光沢が控えめで品が良いのとは対照的だ。さて、越境したわずか7ミリほどの悪魔と、この瞬間も私たちのために戦ってくれているみなさん、心からありがとう。

河合 薫

かわい・かおる●健康社会学者

『特殊害虫から日本を救え』

宮竹貴久 著

発売中・集英社新書

定価 1,100円(税込)

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