[本を読む]
堂々とマイウェイを
年をとる速さに気持ちがなかなか追いついてこない。あと数年で六十五歳、名実ともに高齢者となろうとしている私の実感だ。精神面はたいして成長していないのに、体には若い頃ならあり得なかったことが次々と。この先いったい何が起き、どんな心持ちになるのだろう。本書の著者は前期高齢者まっただ中。「美容院探しとヘアスタイル」「つまらなさを嘆く人と面白さを見つける人」など、私には目次からして気になることが満載だ。誰にとっても老いは初めての体験。ひと足早く体験し実況中継してくれる人の存在は心強い。
鏡に映る自分に愕然。傘は風に耐えられても支える腕の方が無理。疲れたら休むのではなく疲れる前に休む。脈拍を測るのを習慣にする。著者との共通点を見出しほっとしたり「なるほど」とうなずいたり。同時に著者ははっきりとマイウェイを持った人だとも感じる。財布は二十年間同じタイプのものを愛用、運動はジムへ行かず生活の中で歩く、など。
背筋の伸びる箇所もある。スマホに表示される「おばさん」関連の記事についての文章がその例だ。ヘアスタイルや服装、持ち物、しぐさで「おばさん」と定義づけされることに、著者はうんざり。怒りは記事のライターや発注者にまで及ぶ。それらの記事をいわば真に受け、補整下着に下腹の肉を詰め込み辛い思いをしてハイヒールを履くのは「その人の自由である」。
意外な展開に二度見した。「気が知れない」と続くと思いきや「自由である」と言い切っている。よりよい年のとり方を模索中だと、自分と違う方向性の人を否定したくなりそうだけど、否定の回路を通らなくても歩いていける。「大人だ」と、端的に言えば「かっこいい」と思った。
六十代になったらこうしましょうと、後ろを来る人へ振り向き指南することを著者はしない。堂々とわが道をゆく。その姿に読者は感服し、それぞれのマイウェイを進むのだ。
岸本葉子
きしもと・ようこ●エッセイスト