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岩井三四二『鶴は戦火の空を舞った』(集英社文庫)
を末國善己さんが読む

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黎明期の飛行機に
人生を賭けた男の熱き物語

 日本の無線開発を描いた『「タ」は夜明けの空を飛んだ』で初の近代史に挑んだ岩井三四二の近代史ものの第二作は、陸軍の飛行訓練生・錦織英彦にしきおりひでひこを主人公に黎明期の飛行機の発達を追っている。
 物語は、徳川好敏よしとし大尉と日野熊蔵大尉が、日本で初めて動力飛行機で空を飛んだ一九一〇年の翌年から始まる。
 当時の飛行機は木製の枠組に布を張った簡易な構造で、大企業ではなく飛行機好きのサークルが機体を作ることも珍しくなかった(作家の稲垣足穂たるほは、実際に仲間と飛行機を作っている)。飛行機の目的は偵察なので武装はなかったが、第一次世界大戦の青島チンタオ戦で空中戦が現実となり、英彦たちは射撃範囲は狭いが機体へ強引に機関銃を積んで対応した。飛行機を攻撃に使う必要性を進言したところ上層部にうとまれた英彦は、ITの導入による業務効率化を訴えるも上司の無理解で黙殺される若手社員に近いので、若い読者は共感が大きいのではないか。
 ヨーロッパでは航空技術が飛躍的に進歩し、運動性能が高い機体、前方のプロペラを撃ち抜かずに機銃を発射できる同調装置、爆撃用の大型機などが次々と開発されていた。そのため後半になると、宮崎駿監督のアニメ『紅の豚』のような迫真のドッグファイトも描かれるが、日本は最新技術の導入に消極的だったとされている。これもAIの導入が遅れている現代の日本を彷彿させるだけに、普遍的な日本の病理に鮮やかに切り込んでいた。
 本書は航空技術の発展を丹念に追っているが、単なる技術小説ではない。
 士官学校の成績が今ひとつで出世が望めそうにないため、飛行機という新技術の習得に人生を賭けた英彦の成長物語でもあるのだ。空を飛ぶ楽しさに目覚めた英彦は原隊復帰で工兵大隊に戻ったのを機に、戦時下のフランスへ渡り戦闘機のパイロットになる。仕事を捨て妻と離れ死の危険もあるが充足感を与えてくれる仕事を見つけた英彦は、安定しているがやりがいのない仕事と、リスクは高いが好きな仕事では、どちらが人を幸せにしているのかを問い掛けているのである。

末國善己

すえくに・よしみ●文芸評論家

『鶴は戦火の空を舞った』

岩井三四二 著

5月21日発売・集英社文庫

定価 1,034円(税込)

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